フード風土 18軒目 うなぎの双葉
よそ行きの「グルメ」じゃない、生活密着の「食いもん」を探して、アマを歩く。
旦那とうなぎの小粋な関係
甘辛いタレのツヤが食欲をそそる。夜は吸い物なしで840円。ランチのお得感は特筆ものだ。
土用の丑でも浜名湖観光でもないのに、「うなぎ専門店」に入るのは気後れする。お江戸の小粋な旦那衆あたりが「ちょいとうな重でも食うとしようか」と暖簾をくぐっているような、どこか敷居の高さを感じてしまうのは小心ゆえか。しかしここなら心配無用。昼のサービスタイムには、うな丼(並)が吸い物付き600円で食える専門店なのである。
もちろん、ただ安いだけじゃない。生産量で浜名湖をしのぐ愛知県一色町産のうなぎを炭火でじっくり炙るのは、この道27年、大阪の店からスカウトされてきた嘉森美馬さん(52)。「開き8年、串打ち3年、焼きは一生」のうなぎ道を真摯に究める職人である。
「1匹焼くのにだいたい13分。焼きながら串を入れていく『縫い串』や、焼きムラを防ぐ水かけが欠かせないから、昼どきはほぼ炭火に付ききりやね」
頃合いを見てタレを塗り始めると、醤油とみりんと脂の焼ける香ばしい匂い。それだけで飯が食えるという、あの感じ。身は芯までしっかり焼いても表面はあくまで柔らかく。ほどよく脂の乗ったのを2切れ、タレがたっぷり落ちたご飯に絡める。「もう1杯」と言いたいところでぐっとこらえるのが大人の粋というもの。吸い物に浮かぶ肝をかじりつつ、三つ葉のさわやかな風味で心を落ち着かせる。次は3切れの「上」を食べてみようかな。1155円か…。
カウンターを埋めるのは、パチンコ屋の常連や会社員、見るからに「ご隠居さん」風情の人たち。「パチンコの常連さん同士で、勝った人がうなぎを奢ったりしてるみたいですよ。毎日来る人もいますし」。豪勢なり、ギャンブラー。
尼崎南部人なら屋号でピンと来るように、この界隈を牙城とする「双葉寿司」の系列店。この店舗も、もとは寿司屋だったのが、うなぎ好きの社長の一声で30年ほど前に商売替えした。
しかし、ランチタイムだけとはいえ、この味、この品質でこの値段はやっぱり破格。「そこは社長の気風の良さ。それだけですわ」やはり、うなぎの陰に旦那あり、なのである。■松本 創
18軒目 うなぎの双葉
神田北通3-39
11:00~15:00
16:00~21:00
木曜定休
06-6411-2880
※サービスランチは昼のみ。土用の丑の日と正月はやっていません。