神主のぶらり街歩き 連載第1回 工場編 工場内のお稲荷さんが気になる

健康のため、ウォーキングを始めた。健康のためというか、中性脂肪や肝脂肪などの数値が高くなり、食事の節制と運動を医者から薦められた療養のためだ。

といっても土日祝日のない仕事。一番手っ取り早かったのがウォーキングだった。

でもただ歩くだけでは面白くない。そこで、神主の目でまちを観察することにした。

尼崎の南部には巨大な会社や工場が多い。朝夕には通勤の人で、昼間は出入りの業者さんで賑わっている。そんな風景を見て、「だんだん尼崎も景気が回復してきたんやなぁ」と感じられる方も多いだろうが、私はそんなことよりも、その工場内の「お稲荷さん」についつい目がいってしまう。多くの工場では門を入ってすぐ、敷地の中でも一等地に構えられている事が多い。朱の鳥居と小さなお社。工場の守り神として創業時から祀られているのだ。

工場にとって絶対に避けたいのが「事故」であり、そのため「安全」に対する様々な努力をされている。その一つにお稲荷さんの前で安全祈願を行うことがある。年に一度や月に一度、神主が招かれて神事を行う場合もあるし、従業員さんがご自分達で安全を願われることもある。また工場長や安全担当者などは毎日、朝夕にご神前で手を合わせ拝礼されていることも多い。また掃除当番が決められていて、常にお社がきれいなお稲荷さんも見かける。

最近はお稲荷さんを建立されない新設工場も増えてきた。やはり一等地にお稲荷さんはもったいないからか。それとも事務所内に神棚を祀られているのか。ここまではぶらりまち歩きで知ることはできない。

私は会社や工場にとってお稲荷さんや神棚は必要だとお話することが多い。神さんが守って下さるという考え方もあるが、毎日単調な作業が続く中、お稲荷さんや神棚が会社・工場の中で異空間を作ってくれており、気持ちを切り替える場となるからだ。

私も色々な会社のお稲荷さんの前を通り過ぎるときは、「ご安全に!」と心に念じ歩いている。ついでに「痩せさせてー」とも願いながら…。


江田 政亮 えだ まさすけ
だんじり祭り、地域寄席…いつでも尼崎人にオープンな南部のお社きふねさん(貴布禰神社)第17代宮司。「国道43号線にだんじりを走らせたい」と南部再生への想いは日々強まる。