南部再発見 メッキ、モンダイがおすすめ
知る人ぞ知るディープサウスの魅力
市営住宅の建ち並ぶ一角。木造平屋の一軒に、いかにも増築しましたという面持ちの店がある。広さは2坪弱。人通りのまばらな家並みの中にひっそりと。店先では、近所のおばちゃんたちが日除けのパラソルの下で談笑中。安易な表現と知りながら、下町風情と言ってしまいそうな光景がそこにあった。
店は「鮮魚店いとう」。経営者吉田敏子さんだ。吉田さんは愛媛県の八幡浜育ち。水産加工の家庭に生まれ、1969年尼崎へ移住。西淀川の工場で働いた。「その時は高度成長の真っ最中。やりたいことを考える余裕もなかったけど、時おり四国の海を懐かしく思っていました」と語る。子育てから開放され、自分の時間を持つと、四国の魚を尼崎で紹介できないかと考えるようになった。八幡浜に赴き、トロール船に乗っていた従兄弟に話すと、漁師のつながりで魚を安く仕入れることを約束してくれた。
そして2001年11月6日、名前から屋号を取って「鮮魚店いとう」が開店した。「そのほうが近所の人に馴染んでいるし、平仮名で分かりやすいでしょう?」。親しみやすさは、取り揃える商品にも貫いている。「百貨店でも四国の魚は売っているけど、高くておいしいのは当たり前。安くておいしい魚でないと」。おすすめはメッキ(アジの一種)とモンダイ(タイの一種)。メッキは高級なシマアジとよく似た味がするが、値段が3分の1と安く、刺身や塩焼き、吸い物、鍋など、どのような調理にしてもおいしいという。
開店時は歩道にまで品物があふれ、応援を頼むほどの盛況だった。しかし、5月から8月はトロール漁の休漁期間にあたり、夏場は魚の種類が少ないこともあって客足は落ちついているという。「暇になったと言うと世間ではあんまりよく思われないけど、お客さんとゆっくり話すことも大事だからぼちぼちやってますよ」
鮮魚店 いとう
営業時間 10:00~17:00 日曜定休 電話 3340-0470