フード風土 3軒目 おふくろの味「さつま食堂」

健康談義はエンドレス

1. 赤魚の煮付け(170円) 2. 日替わり皿(120円) 変わり玉子焼き 3. ウナギの肝(50円) 4. みそ汁(80円) 5. 玄米ご飯(190円)

何が食いたいわけじゃない。特別のごちそうがあるわけでもない。なのに、ついつい足を運んでしまう店がある。社員食堂とか、学生さんなら学食とか。昼飯時、見渡せばイタめし屋にハンバーガー屋、あるいは「カフェ」や「ビストロ」とやらしかなく、「何をー!それで腹いっぱいになるかあ!メシ食わせんかい、メシ」と思った時、ふと見つけた一膳飯屋─。

食う楽しみ、味わう喜びというより、それは習慣、「日課」としての選択なのだ。

「これ食わずに死ぬな」という勢いでお勧めできる逸品はない。店構えも古ぼけて、正直貧相ですらある。でも、軒先にシソやシイタケが無造作に干してあるのや、日替わり献立を墨汁で書きなぐった、その筆の運びに誘われて、ふらふらーっとのれんをくぐってしまう人もいるだろう。そんな店だ、「さつま食堂」は。

店名から想像がつくよう、鹿児島出身の気さくなおふくろさんが迎えてくれる。

引き戸を開けた途端、堰を切ったように弾けた声が降りかかってきた。「おばちゃんとこは毎日違うメニューやで。今日は玄米ご飯。食べてみ、おいしいから。明日は麦ご飯よ」「おばちゃん本ようさん読んでるから、ビタミンとか色々考えとるねんで」「この店来て痛風治った人おるんよ。水虫も」「おばちゃん、しゃべり過ぎやな。お兄ちゃんら今日初めて?」

「…」。

ガラスケースから魚の煮付けを選ぶ。それからコンニャクとアボガドを炒め合わせた小鉢。玄米ご飯。味噌汁。「健康にいい」と、ウナギの肝の煮物や具だくさんのソーメンも勧められたが、そんなに食われへんて、おばちゃん。しかし魚は美味い。酒の風味もほんのりと、少し甘みが勝つほどに煮付けた赤魚をあてに玄米ご飯をかき込めば、そこはもう我が家の食卓だ。

自慢は日替わり皿。この日はミンチカツにチクワ炒め、ヨーグルトとカニかま入りの「変わり玉子焼き」─。もろもろ5品で120円。安すぎるちゅうねん。

そんなこんなの間も健康談義は続く。壁際に目を走らせると、あったあった、ネタ本の山。「からだのしくみ百科」「食べるクスリ」「カルシウムの秘密」…。

金曜はカレーの日。常連さんの要望らしい。「おばちゃんとこは8種類も9種類も(具を)入れとるから」。

1回食べとこか。何となくそんな気になるから不思議だ。■松本創