論:フランチャイズの風をまちづくりに オリバーソース社長 道満雅彦氏に聞く

以前からあまけんで注目していた「地ソース」というジャンル。今回、関西を代表する有名ブランドのトップからお話をうかがうことができました。1923年神戸で創業以来、広くまちに愛され続けているオリバーソース。「地ソース」は都市再生のカギを握っていると思うのですが…。

関西の味といえば、お好み焼き。みなさん、どんな具を入れてどれくらい焼いて、という風にこだわられるけれど、最後のソースで手を抜く人がまだ多い。すしで使うしょう油は5から10ccほどなのに、ソースはお好み焼き一枚に40から50ccと断然多い。味はソースで決まるといわれるほどなのに…。

「地」を大切に

長年、ソースづくりに携わってきた身から言えば、フランチャイズの文化を大切にしたい。地酒、地みそ、地ソース。なかでも地ソースといえば神戸の新開地、兵庫、長田、そして尼崎…。下町に根差したお好み焼き屋さんのあちこちに、それぞれの味わいがある。そんな店がそろう街には独特の風が吹いている。盛り場や市場、路地裏など、歩いていると「気」が伝わってくる場所がありますよね。界わいのもつ奥深さというか。ソースの焼ける匂いとあいまって、得もいわれぬ味わいが醸しだされています。

春夏の高校野球はフランチャイズ重視だから盛り上がりますよね。スタンドでは驚くほど色濃い応援が繰り広げられる。そこには、他所を知ろうとせずにけなす「排他主義」ではなく、それぞれを認めあう雰囲気があるようにみえます。

文化にこだわり

街を歩くと分かりますね。自らの育んできた文化にこだわりのない街はどこか薄汚れている。一方、風が吹いている街には隅々に配慮が行き届いていて、建物が多少いたんでいようが、施設が不十分であろうが、街は汚れていない。住民自身がこぎれいにしている。

しかし、戦後の日本のまちづくりはどうでしょう。駅前は惨澹たるもの。いずこも再開発で同じような中高層ビルが立ち、駅からデッキで直結。同じようなチェーンの量販店が入っている。多様性こそが奥深さなのに、完全に逆行してきたといえるでしょう。

そんな画一性の圧倒的な流れの中で、地ソースがしっかり息づいている街は、同化が起こらない。その他大勢に埋もれてしまわない。

知る、知らせる

尼崎に感じるのは街の底力です。「公害の街」とけなされようが、地ソースをつくる業者が独自ブランドを守っているのも、街を愛する人がたくさんおられることのあかしなのでしょう。

猛烈な磁力を持つ東京一極集中で、東京にあこがれる風潮は根強い。しかし、せっかくわが街に吹いている風に気づかずに、本当に求める「何か」を東京で探してしまうのは残念であり、むなしい。受け継ぐべきすばらしい文化を知らないままに生涯を終えてしまうのは不幸ともいえる。

だからこそ、知る、知らせてあげるという努力をみんなでしたい。

ほんのちょっとしたことで街はぐっと変わる。長年ずっと負のスパイラルだったのが、プラスに転じるときがある。自己燃焼からパワーが出てくる。今年のタイガースがいい例です。上へ上へという力が働きだしている。まちづくりも同じ。自分が暮らし、働くホームタウンで、どこに風を見いだすか。どう風を吹かせるか。そこにこそ都市再生のカギがあると思います。■取材・構成 あまけん編集部


道満 雅彦(どうまん まさひこ)

1952年、とんかつ用、焼そば用など濃厚ソースの元祖とされる老舗に生まれる。大学卒業後、75年に入社、91年社長。阪神・淡路大震災で神戸市兵庫区の本社、工場が全焼し、ポートアイランド第2期に移転。独自のソースまちづくり論を展開中。