フード風土 5軒目 味はおまかせ 中華の「王(わん)さん」

秘伝ソースでやきめしを

職人気質の大将。「この人が取材なんか受けるの珍しいんやで」と常連さん

炒飯。これほど身近で、万人に愛され、シンプルでありながらバリエーションに富み、だからこそ作り手食い手がそれぞれに秘伝や王道や美学を持っている食い物があるだろうか。一品で立つキャラの強さではカレーやラーメンに及ばないが、主食によし添え物によし、熱々でよし冷めてよし、決してはしゃがず出しゃばらずの寡黙なオールラウンダーぶりは、B級グルメ界のイッチロー・スゥズキィと呼びたい。

上やきめし(750円)

その炒飯=やきめしの評判を聞き、出屋敷の「王さん」を訪ねた。お目当ては「上やきめし」。一度食ったら2度3度と通わずにいられなくなるという。

油の匂いと中国語歌謡に満ちた店内は正しく大衆中華の装い。メニューを開けば餃子に酢豚、レバニラに中華丼と、学生~労働者諸兄に欠かせぬ肉体系中華が揃いも揃ったり105種類。「味はおまかせ」のコピーは自信の表れと見た。頼もしい。

聞けば大将の沖充さん(50)、15歳からこの道一筋35年。21歳で大阪は都島に店を持ったが、思うところあって15年前アマに移ってきた。屋号の「王さん」は何でまた?「分かりやすいやろ。それに、必ずさん付けで呼ばれるから偉なった気分やしな」。

まずはビールに餃子、ザーサイで軽く。続いて奥さん推薦「若鶏スタミナ焼き」。「若い人にお勧めヨ」と。若い人…。光栄である。ぶつ切りモモ肉に白ネギ、タマネギ、こってり甘辛いタレを絡め、“若さ”に任せて一気に頬張る。舌にピリリと豆板醤。ああ、ほんとに若けりゃこれで白飯5杯はいけるのに!

本日のメイン「上やきめし」では厨房をのぞかせてもらった。使い込まれた中華鍋の上、ご飯にチャーシュー、イカ、エビたちがザックザックと宙に舞う。小気味良く鍋の縁を叩くお玉のリズム。自信に満ちた職人の仕事ほど見ていて気持ちのいいものはない。

「上」たる由縁は具材のシーフードと羽毛布団のようにふわりと飯を覆う卵。そして仕上げの特製ソース。何が入ってるんですか?

「35年の経験や。秘伝の味?そやな」

腕に覚えあり。大将は不敵な笑みで、われわれを煙に巻いたのである。■松本 創

5軒目 王(わん)さん

昭和南通7-177-4 Tel. 06 (6413) 8939 19:00~深夜1時 月曜定休 阪神出屋敷駅から出屋敷線を北へ徒歩7分