尼崎コレクションvol.17《水堂古墳出土『三角縁神獣鏡』(さんかくぶちしんじゅうきょう)》

尼崎市内に現存している逸品を専門家が徹底解説。あまりお目にかかれない貴重なお宝が歴史を物語る。

霊力宿る卑弥呼の鏡

三角縁神獣鏡は、鏡の縁の断面が三角形(三角縁)になっていることからそう呼ばれています。直径約22センチの鏡で、当時、絶大な権力を誇ったであろう日本各地の権力者の古墳から出土しています。日本全国で総計約400枚出土しており、そのうちの一枚が、尼崎市の水堂古墳から出土しています。

尼崎市水堂町1丁目に所在した水堂古墳は、古墳時代前期(4世紀頃)の前方後円墳です。 昭和37年に第1次の発掘調査が行われ、被葬者が埋葬される主体部[しゅたいぶ]で、三角縁神獣鏡は発見されました。棺は、長さ6.1m、幅0.7~1.0m、高さ0.5mのヒノキ材を使った割竹形木棺[わりたけがたもっかん]と呼ばれるもので、内部は厚く朱で包まれていました。三角縁神獣鏡は棺の中央、被葬者の頭上近くに、布で包まれた状態で出土しました。よほど大事なものであったのでしょう。

この三角縁神獣鏡には、古代の人々の願いが込められています。鏡の絵柄には、三人の神仙[しんせん]像、四匹の霊獣[れいじゅう]像が描かれており、これは古代中国の神仙思想(神仙となって不老不死を得ること)を色濃く反映したものです。天空に住む神仙(東王父[とうおうふ]・西王母[せいおうぼ])とそれらに使役される霊獣を表しています。また、銘文も刻まれていました。水堂古墳の三角縁神獣鏡では解読できなかったのですが、同じ鋳型を使い鋳造した鏡、いわゆる同笵鏡[どうはんきょう](黒塚古墳、西求女塚[にしもとめづか]古墳、芝ケ原11号墳)から『吾[われ]作明竟甚大好 上右百鳥不知老 今為青竟日出卯兮』と書いてあることが推測できます。大意は、『吾はなはだ好い明鏡をつくる。百鳥は老いることを知らない。今、青鏡を為し、日は東から昇る』でしょうか。神仙と霊獣と銘文、この鏡には、長寿と昇仙(神仙になり不老不死を得ること)が約束されています。この鏡の持ち主は、さぞかし特別な霊力を期待されたことでしょう。

現在、水堂古墳出土の三角縁神獣鏡は尼崎市の指定文化財となっており、文化財収蔵庫で常設展示しています。

平成25年7月22日から9月6日まで西宮市立郷土資料館に貸し出し中です。

文化財収蔵庫

開館は月曜~金曜日の9:00~17:30
入館無料・予約不要 南城内10-2 TEL:06-6489-9801


髙梨政大
尼崎市教育委員会学芸員 鏡の他に、今でも色褪せない「真っ赤な朱」など展示中です!是非ご自身の目で確認してくださいね!