マチノモノサシ no.4 43号沿道の環境改善に必要な大型車の転換台数

尼崎にまつわる「数」を掘り下げ、「まち」を考えてみる。

削減目標は9600台

「ロードプライシング」って聞いたことあるだろうか。利用したことは…?

昨年の6月から8月にかけ、阪神高速湾岸線でテスト実施されていた。大型車の料金を半額にする― それにより、並行する国道43号線や阪神高速神戸線から車を誘導し、付近の排気ガスを減らすのが目的。環境改善や渋滞解消の狙いのもと、一般道に課金したり、料金差を付けたりするこうした施策をロードプライシングと呼ぶ。

尼崎市内の国道43号線は、1988年に尼崎公害患者・家族の会が企業と国、阪神高速道路公団(当時)を相手に裁判を起こした“現場”だ。当初10車線あった国道の上を神戸線の高架が走る2階建て。排気ガスや騒音・振動がひどく、さらに工場地帯からのばい煙が重なった。ぜん息などで公害病と認定された患者は延べ1万1208人に上り、3月現在でも2570人が苦しんでいる。

裁判は2000年、国・公団と和解が成立。和解の条件として、大型車の交通量削減や、大気汚染を調べる測定局の設置などが盛り込まれた。

「和解は原告と被告が環境改善に取り組む出発点。具体的な方法は連絡会で議論しているが、成果はまだ見えない」と原告団長の松光子さん。現在43号線と神戸線の1日の交通量は約15万台で、うち4万台が大型車。近年は物流ニーズが高まり、増加傾向にある。人体への影響が大きい二酸化窒素(NO2)や浮遊粒子状物質(SPM)濃度が環境基準値を上回っていても放置されている東本町交差点のような例もある。

さて、ロードプライシングの効果はどうだったか。

湾岸線の交通量は、尼崎と西宮の市境部分で13.9%増加。逆に神戸線は9.7%減った。テスト前には、乗り換え率5%程度を予想していたというから2倍近い成果だ。だがそれでも、市内4カ所の大気汚染測定局のデータに、大きな変化は表れていない。

原告団側は昨年12月、環境基準を達成するための削減案を発表した。それによると、1日当たり9600台。つまり、いま通行する大型車の約4分の1を減らさねばならない、という。湾岸線の料金割引に加え、神戸線の割り増し、ナンバープレートによる車両規制なども導入して、ようやく実現できる数字だ。案をまとめた神戸商船大学名誉教授の西川榮一さんはいう。「交通量や大気を調べ、ロープラのテストもやった。その結果を大型車交通削減策にどう反映させるかが重要だ」

いずれ本格導入されるというロードプライシング。一方で道路利用者の声もある。

たとえば、ドライバーに湾岸線利用を呼び掛けてきた兵庫県トラック協会。「物流業界は1分1秒を争う世界。国道43号線から、時間や費用をかけて迂回させようと思えば、湾岸線を無料にするぐらいでないと…」と指摘する。六甲アイランドで途切れる湾岸線は、東西交通としては不便だ、とも。

阪神高速道路は来年度から走行距離に応じた料金制度への変更を目指すという。尼崎公害訴訟の提訴から20年。環境の時代にふさわしい車社会像は提示されるだろうか。■尼崎南部再生研究室

1日あたりの大型車交通量

削減目標に掲げられた9600台は、現在の交通量の約23%。およそ4台に1台の大型車を湾岸線にシフトさせる目標となる。

※センサス区分・道交法区分大型車を測定
出典:『阪神間交通量調査』(平成18年3月実施)国土交通省近畿地方整備局