サイハッケン 尼崎発の未来建築があった。

長く住んでいても意外と知らないまちの愉しみ。「へえ~」と目からウロコの再発見!
ディープサウスの魅力をご堪能ください。

大阪万博の前後に、建築家・黒川紀章が手がけた「中銀カプセルタワービル」などのカプセル住宅が全国で流行した。

40年ほど前に生まれたレトロフューチャーなカプセル住宅「フローラ」。過ぎ去った未来へようこそ。

オシャレで未来的、そんなイメージのカプセル建築の一つに、なんと尼崎ゆかりの製品がある。尼崎で創業し、今も市内に工場を構える絶縁材料メーカー・利昌工業の「フローラ」だ。時はレジャーブーム真っ盛りの1972年、大手商社との共同開発により、その名の通り花開いたのだった。

雪国の“かまくら”からヒントを得たという丸いデザインは4枚のFRP樹脂製パネルを組み合わせたもので、同社が経営する武庫川自動車学園で展示・発表が行われた。

製造は滋賀工場が担当したため、厳密にはメイドインアマガサキではないが、尼崎工場を訪ねてみると、今も社員の休憩所として皆さんに愛されていた。

「ユニークな形で気に入ってます。うちの会社でこんな斬新な製品を作っていたんですね」と利昌工業の担当者。工場内の緑地にうずくまるように佇むそれは、眼にするだけで自然と笑みが浮かぶユーモラスな姿をしていた。

この未来建築、何と全国で500戸を超える販売実績をあげたというから驚きだ。別荘、コーヒーショップ、レストラン、ゴルフ場の東屋やスキーロッジに、とその用途も様々だ。

甲子園球場近くの「串かつ けん」。内部はスペーシーな空間かと思いきや、かまくらをイメージしただけあって、土俗っぽい雰囲気

お隣の西宮市には、串かつ屋さんとして活躍する物件がある。バーバパパの家のような囲まれ感のある丸い壁は、妙に落ち着く雰囲気だ。ほかにも、軽井沢の別荘や神戸市内の駐車場で目撃されており、ひょっとすると他にもまだあるかもしれない。見かけた方はぜひ一報を!


取材と文/井上 衛
1973年生まれ。尼崎在住。昔の方が未来的!というショックが癒えないポスト万博世代。