万俵鉄平もうらやむ 華麗なる尼崎

鉄は国家なり──。鉄鋼業華やかりし高度経済成長期の神戸・阪神間を描き、高視聴率を記録したドラマ『華麗なる一族』。キムタク演じる主人公、阪神特殊製鋼の専務・万俵鉄平が情熱を傾けたのが高炉建設だ。ライバルの帝国製鉄尼崎製鉄所から材料の銑鉄が納入されず、社運をかけて建設を決断する。

原作は山崎豊子の同名小説(1970~72年、週刊新潮)。戦後最大の倒産劇を生んだ山陽特殊製鋼や神戸銀行(現・三井住友銀行)などをモデルにしたといわれている。

小説の背景を見よう。阪神工業地帯で初となる高炉は1941年に尼崎製鋼所が建設。鉄鉱石から銑鉄を作り出す巨額の設備は、当時の鉄鋼メーカーにとって飛躍へのステップだった。戦後、神戸製鋼所が経営参加し、2基目となる高炉を建設。その後合併により65年に神戸製鋼所尼崎製鉄所と改称した。

そうした高炉大手を頂点に、鉄鋼業の裾野は広がった。60年代中盤、大阪、尼崎の両市で鉄鋼業の従事者数は6万人を超し、ピークを迎える。製造業の全従事者に占める割合は大阪の7.1%(67年)に比べ、尼崎市は実に22.2%(64年)。「鉄の街」で働こうと、各地から大勢の働き手が尼崎にやってきた。まさに「工都」が熱く燃えた時代だった。

伝説の「尼鉄」高炉

写真は尼崎製鋼にあった高炉の姿(『尼崎製鋼十年史』から転載)。神戸製鋼所は70年代から加古川工場へと生産をシフトし、87年に尼崎での操業を完全に休止。高炉は95年に取り壊された。