次世代銭湯研究会アツすぎるフロトーク
銭湯に未来はあるのか?3人の経営者たちが次世代の銭湯についてお風呂で熱く語りあいました。
蓬莱湯 稲里美さん 昭和34年生まれ。3代目。掘った温泉水を宅配し、さらにボディーソープやローションといった商品開発まで手がける銭湯業界のイノベーター。「今度はドッグランを開きたい」ともはや常人には理解不能な発想力でトークをひっぱる。
第一敷島温泉 黒木達也さん 昭和39年生まれの3代目。今回のトーク会場でもある、時間が止まったようなレトロな銭湯は尼崎遺産の呼び声も。長男の雅也くんが発行人を務める壁新聞は必読。休日には次男の千翔くんも一緒に銭湯巡りを楽しむマイホームパパ。
神田温泉 五島明彦さん 昭和33年生まれ。トーク開始直後「銭湯はもうすぐ絶滅しますよ」とネガティブ発言をするも、銭湯を語り出すと実は熱い2代目。菖蒲湯、ゆず湯など毎月の季節風呂にも積極的。「風呂屋の風呂好き」として各地の風呂屋との交流も多い。
なかなか厳しそうな銭湯業界。直面している問題は何ですか。
五:一つは「生活環境の変化」です。内風呂が普及して、毎日通う生活湯としての存在意義がなくなりました。もう一つは「高い入浴料」。大人400円の料金で、4人家族が毎日通うと月3万円になります。生活湯としては200円くらいが妥当だけど、そこまで値下げすると商売が成り立ちません。
黒:銭湯の数は減る一方で、スーパー銭湯はもちろん、スポーツジムやデイサービスといったお風呂がついた「温浴施設(※1)」は増えているんです。レジャーや運動、介護など、お風呂に求めるものがどんどん多様化する中で、銭湯から客がいなくなったのも問題だと思います。
稲:経営の問題では、昔に比べてお客さんが減った分、経費削減で従業員を減らしたため、経営者の仕事量がずいぶん増えているんです。みんな、次のアイデアを考える時間もないほど働きづめ。もう一つの問題は「客単価の低さ」も問題です。スーパー銭湯はレストランやマッサージなどのサービスで稼ぐシステムですが、今の銭湯にはお風呂しかない。滞在時間を比べても、半日楽しめるスーパー銭湯に比べて、街の銭湯はせいぜい30分程度。これからの銭湯には、どんな付加価値を持たせるかが勝負だと思います。
毎日通える生活湯か、たまに行きたい極上のプレミアム風呂か、それぞれに方向性は違うようだ。ところで銭湯の入浴料に違いはあるのだろうか。
黒:杭瀬周辺は、みんな380円なんでそれに合わせてます。
五:うちも周辺との兼ね合いで360円です。でも価格競争ではスポーツジムに太刀打ちできない。6千円の月会費だと毎日通っても1回200円くらいで広いお風呂に入れるんですよ。
稲:うちは物価統制令(※2)で決められている上限の410円にしたいとこやけど、番台に座る母親がお釣りを間違わないよう400円にしてます。理由はそれだけ。
なかなか厳しい街の銭湯事情。それでも未来に向かう銭湯経営者の次なる秘策とは?
稲:お客様に特別な空間を提供すること。「うちのお風呂の存在意義は何やろう」とよく家族で話し合いをしています。これまでの生活湯から脱却して、蓬莱湯が目指すのは「オンリーワン風呂」。セレブな人たちが通いたくなるお風呂にして、いつかは会員制に、という構想もあります。斜陽産業でもドラッカーが言う「新しい価値創造」で生き残れるんだ、というのを証明したいですね。
黒:僕は浴場組合の支部長をさせてもらっているんですが、風呂屋が一軒も潰れないように街全体で盛り上げる仕掛けが必要だと思うんです。参考にしたいのは川崎市。Jリーグ「川崎フロンターレ(※3)」と浴場組合が組んで、「フロ」繋がりで、Jリーガーが広告塔になってキャンペーンをやっています。尼崎でも何か上手いダジャレがないかといつも考えているですよ。センタープールと銭湯をかけて、センプルくんとのコラボとかね。まずは自宅の近くの銭湯を知ってもらうきっかけづくりに、スタンプラリーなど組合をあげてやりたいですね。
五:うちの場合は、お年寄りのお客さんも多いのですが、よく見ているとおしゃべりをしに来ているんです。いわばコミュニティの「場」を提供するだけで存在意義があると思っています。極端に言うと必要なのは清潔感のあるお風呂だけで十分。尼崎南部ではこれからも単身世帯が増えていくので、「家の狭いお風呂を沸かすより、広くてきれいな銭湯の方が掃除もせんでええし楽」と考える人も多いはず。
公衆浴場はもともと大きな浴槽やお湯を地域シェアするシステムだったという原点回帰の視点から、話は銭湯のこれからへ。
黒:実は銭湯通いはとってもエコなんですよ。温水器やろ過機など、家庭より効率よくお湯を沸かすことができるため、一家族で1年間銭湯に通うと千トンのCO2が削減できる、という話を聞いたことがあります。
五:うちでは毎年、幼稚園児を招待しています。落語の『浮世風呂(※4)』にある通り、銭湯ほど道理を教えるのに最適なところはない、と思います。
黒:最近は『テルマエロマエ(※5)』の影響もあって遠方からも毎月通ってくれる若いお客さんも増えています。たとえ月1回でも常連さんと同じようにこういう熱心なファンを大切にしたい。今度、中学生の息子が銭湯ファンのグループとガイドツアーを企画しています。うちの銭湯をきっかけに杭瀬の市場など尼崎の魅力を知ってもらいたいですね。
【銭湯業界用語解説】
※1 温浴施設…入浴設備を持った施設のこと。スーパー銭湯からスポーツジム、デイサービス施設も含む。
※2 物価統制令…戦後のインフレから庶民の暮らしを守るために制定。衛生上の必要性から公衆銭湯も対象になった。
※3 川崎フロンターレ…プロサッカーチームと浴場組合が「フロ」のゴロ合わせから『一緒におフロんた~れ』企画を実施。
※4 浮世風呂…江戸時代の社交の場だった銭湯を舞台に当時の庶民生活がリアルに語られる噺。
※5 テルマエロマエ…古代ローマ時代と現代の日本の浴場をテーマにしたヤマザキマリの人気漫画。2012年春には映画化。