ツクラナイマチヅクリ 第7回 蔵造りの町・埼玉県川越市

新たに施設などを作らずに、地域の資源を上手く活用したまちづくりを紹介。

商家の周囲も乱開発から守ったため、空がくっきりと見えることに注目。

「そうだ。京都に行こう」と、京都にわざわざ行かなくても、全国いたるところに「小京都」がある。その数50以上。昔ながらの町並みを売りにする地域だ。滋賀県長浜市の黒壁によるまちづくりが成功したのをうけ、最近では昔風の建物を観光地にわざわざ新設し、その中にガラス工芸系の店舗を入れる小京都の類似品まで登場してきた。JR東京駅の地下の飲食店まで黒く塗られ「黒壁ゾーン」と銘打たれてしまっているのを見たときには、ブームもここまできたかとある意味感心した。しかし、地域の歴史に根付いていない建物は、どこか浮いてしまっていて、町並みに「エセ」感を感じてしまう。無理に懐かしさや古くささを付けても、どこか商業色を感じてしまい、興醒めする。

こうした「エセ」町並みと一線を画す、保存された本物の歴史的建築物による町並みを核にしたまちづくりを実践している自治体がある。埼玉県川越(かわごえ)市。尼崎のみなさんには馴染みが薄いかもしれないが、なんと人口33万人の市でありながら、年間400万人を超える観光客が訪れる町である。東京ではちょっとした有名観光地で、「蔵造りの町」として名高い。

とりたてて何があるわけでもない。あるのは、中心市街地に多く残っている明治時代の蔵造りの商家。どこを見ても商家、商家、商家。市の中心部の旧街道沿いに、昔ながらの姿でそっくりそのまま二十軒程連なって残っている。

何より驚くのは、残っている蔵造りの商家が、今も実際に使われているということ。それも観光地にありがちな土産物屋ではなく、床屋や刃物屋、額縁屋など、普通の生活に密着した店舗が軒を連ねている。「つくられた」感を全く感じないリアリティさだ。舗道化された道路を除けば、明治の頃の町並みが容易に想像がつく。

実際、昔ながらの町並みは、バブルの時、または高度経済成長期に何らかのダメージを負っていてここまできれいに残っていないのが普通である。伝統的建造物群保存地区制度が発足したのは昭和50年だが、経済成長が著しい中、中心市街地の活性化のために開発がすすめられ、保存も虫食い状態となっているのが実態だ。ところが、川越では既に昭和40年代はじめより蔵造りの保存に対する提言や運動が始まり、40年代後半に地元の青年会議所が保存のためのヒアリング調査を行っていたほど取り組みが非常に早い。故にここまで昔の町並みが残ったのだ。「まちづくりは一日にして成らず」である。是非川越に来て、明治時代の町の様子を堪能してください。

あまけんを紹介した本が出版されました。

日本政策投資銀行地域企画チーム編著『実践!地域再生の経営戦略』(金融財政事情研究会) A5判398p 全国62の地域振興プロジェクトを紹介。


齊藤成人●さいとうなるひと
日本政策投資銀行調査役