街で愛されたふわふわパン武庫川女子大学准教授 三宅正弘

「みみ」を好む人もいれば、「み」という派もいる。パンを焼けば、いい色がつくところもあれば、そうでないとこもできる。パリの人の多くは、前者の方がいいのか、焼き目がたくさんつくように、杖のように細長いパンを考え出した。歯が折れることもあるパンだ。ところが、われわれが好んできたのは、ふわふわで白い方だったようだ。

尼崎でながく親しまれてきた店の屋号はドイツ語になっている。ロシアやモスクワを伝えるところもある。フランスからパンを焼きに来てそのまま続くところもある。尼崎のパンの昭和史もまた、さまざまな人から技術が伝わってきた。

それでもフランスの屋号があがっても、われわれが手にするのは、ふわふわのパンだ。和菓子のようでもあり、洋菓子にも見え、料理でもある。寿司のように、シンプルに仕上げるファストフードでもある。役割が多様であるから、店を訪ねる機会も自ずと多くなる。お店が街に果たす役割は、ケーキ店とともに大切である。ただ違いがあるとすれば、ケーキ店が贈答という機能が少なからずあり、パン屋さんはそうでもない。つまり誰かに贈るものではなく、自分のものである。ひょっとすれば本音が求められるのだろう。


みやけまさひろ
1969年生まれ 大阪大学大学院博士課程修了 博士(工学)。フランス人文科学研究所受入教授などを経て現職。専門は都市計画。大阪市港区長アドバイザー等も務める。都市と料理に関する著書多数。近年は「美食空間学」に関する講演を海外で行っている。昨年は、フランスのパン屋さん兼お菓子屋さんを365日間、一日一店以上調査を続け、都市に果たす店の役割を分析。