尼崎南部再生への始動 尼崎南部再生研究室室長 淺野弥三一

尼崎南部地域は、戦災、地盤沈下、台風・高潮等による水害、産業・道路等による大気汚染公害等により「公害都市」のイメージが作り出され、それが尼崎の正常な発展を阻害してきたことは否定できません。

しかし最近では、運河付近も新しい水辺環境として再生されつつあり、庄下川や蓬川にも幾種類もの魚が棲み、国道43号沿道の環境対策も具体化されようとしています。一方、若い世帯や子育て世帯の流出傾向が続いた南部地域での少子・高齢化は深刻で、事業活動の低迷も長期化し、通りの活気も以前とは全く比べ物にはなりません。

都市が成熟することは、高齢者や障害者、あるいは災害・公害の被害者を含む全ての市民が、快適な環境で、自己研鑽し、社会的役割を発揮できる条件や制度・仕組みを整えることが必要でしょう。そのためには、これまでの経済・産業の公共性・公益性優先から、市民の暮らし・健康・福祉・文化活動を優先する社会・経済構造に転換してこそ、解決できるのではないでしょうか。

南部地域の高齢者等の健康回復や生きがいづくりのために設立された「センター赤とんぼ」では、踊りやカラオケをはじめ、シルバーメイク・着付け・鍼灸・体操教室などのグループ活動が盛んに行われており、周りからの支援も得ながら「共に、教え・学ぶ・楽しむ」手作りの地域のサロンとして日々にぎわってきています。また、ジェーン台風で途絶えた「尼いも」の再生に向けて、栽培を経験した高齢者だけでなく、若いときに食べた人の共感も得ながら、さらには小学校でも栽培に取り組まれようとしています。「尼いも」に関心を有する人たちの「尼いもクラブ」も結成され、いよいよ本格的に栽培されようとしています。

未来協会によるミレニアム遺産の調査を契機に、市内の伝統や伝承されている技術、環境が、尼崎の貴重な資源として再評価される動きや、中小企業の活動や能力が評価される報道や意見も見られるようになってきています。

地域の市民・事業活動それぞれの立場・存在を認めながら、相互協力する市民力と、地域にある自然資源の再評価、そして地域の歴史や教訓に学び・生かす地域力が問われているように思います。

この研究室は、広く市民・事業者の皆様と一緒になって、新しい尼崎南部地域再生への方策についての実践的な調査・研究、つまり南部地域の環境改善と、尼崎の伝統技術の発掘・再生を目標に、人・技術・資源等の活用策についての調査・研究、交流・情報等のネットワーク拠点として育成していきたいと願っています。

このような尼崎南部地域という地域を対象にした実践的調査・研究活動が、21世紀の新たな地域づくりの布石として、行政とも連携しながら、皆さんに導かれ、展開されていくことを切に願う次第です。


淺野 弥三一(あさの やさかず)

1942年生まれ。宝塚市出身 (株)地域環境計画研究所代表取締役 神戸大学工学部卒 75年に地域環境計画研究所を設立 尼崎南部臨海地域の再生へ提言をつづける。震災被災者の住まい・暮らし再建支援も。センター赤とんぼ事務局長もつとめる。