サイハッケン ラッパーが阪神尼崎駅前に集まっていた。

長く住んでいても意外と知らないまちの愉しみ。「へえ~」と目からウロコの再発見!ディープサウスの魅力をご堪能ください。

阪神尼崎駅前の路上でラップの腕を競い合う若者たちがいるらしい。そんな情報を耳にした私たちは、さっそく「阪神尼崎サイファー」を訪れた。

実はいまヒップホップが大流行、日本語ラップは何度目かの黄金時代を迎えている。ラップとはあまりメロディや抑揚をつけず、喋るように言葉を紡いでいく歌唱法だが、現在のブームはフリースタイルとよばれる即興で韻(ライム)を踏みながら、言葉巧みに歌詞(リリック)を紡ぎ続けるラップである。そのうち1対1でお互いの腕前(スキル)を競うものをバトルといい、何人かが輪になって俳諧の連歌のごとくラップし続けるものをサイファーという。

取材当日は19時18分に5人でスタートしたが1時間後には11人に増え、サイファーの輪が二つになった。皆20歳前後の若者である。

「自分の地元でもサイファーをやりたい」とはじめたMC土遁(写真左端)を慕って仲間が集まる。

ラップの内容はアイドル総選挙、昨日のテレビ、懐かしいCM、優先座席の譲り方など、他愛もない日常が大半だが、要所要所で韻を踏みつつも、きっちり会話になっているのがおもしろい。同じクラスにいても、あまり関わらないであろうヤンチャそうな面々と大人しそうな面々が輪になってラップを繋ぐ姿は不思議な光景だが実に和やかだ。

ラップ歴3カ月の若きラッパーは「ここメンバーが優しいからやりやすいし、居心地が良い」という。

「皆下手くそを経験してるから、やりたい人ならどんな人でもバカにすることは絶対にない」とサイファーを主催する土遁(どとん)はいう。彼が「ヒップホップが悪い音楽だと思うなら、ここに来てみて欲しい」というように、時間が経つにつれて笑顔になっていく彼らの顔をみれば、ヒップホップ=不良の音楽ではなく、ここがラップを通じて集まった仲間との充実した時間を過ごす居場所であることがわかる。そんな場があることが、アラフォーの自分にとってはうらやましく感じた。ゴミだけは出さないようにして、いつまでもサイファーの輪を繋げ続けて欲しい。


取材と文/永井純一
神戸山手大学講師。専攻は社会学、文化社会学、メディア論など。あとロックフェス!