3時の働くあなた

毎日新聞阪神支局

深夜3時の本社からのファックスをたった一人で待つ大森記者。
当直で最も緊張が高まる瞬間だ。

「今日は平穏なほう。こういう日もありますね」

昨年5月に阪神支局にやってきた大森記者はそういって我々を迎え入れてくれた。しかし油断はできない。独特の緊張感が場を支配している。というのは、新聞記者の仕事は午前2時から3時にかけてひとつの山場があるのだ。

新聞は記者が取材をもとにして書いた記事をデスクに送り、デスクはそのなかから載せる記事を選択するというプロセスを経てつくられる。この日の大森さんは午前9時半頃に家を出て、特集記事のゲラチェックといくつかの取材をこなし、午後からは支局で記事を執筆して当直までこなしているのだから相当のハードワークだ。事件は24時間起こりうるのだから、それに対応するメディアも常に備えておかなければならない。午前2時はまだ起きている人も多く、まだまだ気が抜けない。そしてこの時間に気が抜けない理由がもうひとつある。

記事は1日のうちに何度かある降版時間にあわせて執筆されるのだが、その最終締切は午前2時に設定されている。この時間になると協定関係にある各紙の記事が出そろう。ここで恐いのが、他紙は記事にしている出来事が自紙には載っていない「抜かれ」という事態だ。もし「抜かれ」があれば、直ちに支社から連絡が入り対応しなくてはならないのである。特に自分たち以外の他紙がすべて記事を掲載している「特落ち」は、なんとしてでも避けたい。そのため、当直の記者は各方面に何度も確認の電話を入れ、万が一に備える。担当者との駆け引きも時には神経を使う仕事だ。そして午前3時までに連絡が入らなければ、ようやく仮眠をとることができる。

毎日新聞阪神支局は尼崎のほかに、西宮・芦屋・三田・川西・宝塚・伊丹・猪名川の広域をカバーしている。それだけに取り扱う事件や事故も多く、また甲子園球場や宝塚歌劇などの文化施設も多く存在しており、良くも悪くも話題に事欠かない現場だ。新聞記者として修羅場がふめるだけでなく、じっくり時間をかけるテーマも多く、「現場に育てられ、考えながら記事を書くようになった」と大森さんは語る。

ちなみこの日はFAXが鳴らないことを確認して取材を終えた。他所で聞いたところによると、上記のような事情で阪神支局を経験した記者には、後に活躍する人材が多いのだそうだ。しかし、せめて夜くらいは何も起こらずゆっくり過ごして欲しいなと、寝坊常習犯の私は思うのでした。

この日のお夜食
「天ぷらわかめそば」

支局近くのスーパーで買ったそばに3枚100円の天ぷらとわかめをトッピングしたぜいたくな一品。支局の小さなキッチンで簡単な自炊をすることがほとんどだとか。


取材・文/ながいじゅんいち
神戸山手大学講師。専攻は社会学、文化社会学、メディア論など。あとロックフェス!