サイハッケン 50周年を迎える同人誌が尼崎にあった。

長く住んでいても意外と知らないまちの愉しみ。「へえ~」と目からウロコの再発見!
ディープサウスの魅力をご堪能ください。

アマガサキ ゾーンの意に、アマゾン川のイメージを重ね、雄大に悠久にという願いが込められたタイトル。

同人誌といえば、今日ではゲームやアニメのファンが作った本を指す場合が多く、オタク文化のイメージが強い。しかし、かつてはプロの作家を志す文学青年たちの発表のメディアであった。そして、尼崎市に50年の歴史を持つ本格的な文芸同人誌があることはあまり知られていない。

1962年に創刊された『AMAZON』は、神戸の『VIKING』(47年創刊)とともに、関西の伝統のある同人誌としてその世界では名の通った存在である。現在は同人・会員・読者を含めて80人弱のメンバーで構成され、2カ月毎の発行と、掲載された作品についての批評や感想を語り合う例会が主な活動である。

もともとは市役所での読書会からスタートし、参加者が各地に散らばることで、活動の幅もまた広がっていった。過去には野間宏や田辺聖子が寄稿したり、大学教授や医師といった様々な職業人が執筆する同誌への評価は高く、プロデビューを果たした作家こそいないものの、文芸賞受賞作品や、文芸誌に転載された作品も少なくない。現在でも、新聞や文芸誌、インターネットに書評が載ることがままあるそうだ。

発行人の射場さん。AMAZONは定期購読のほか、市内の図書館でも読むことができる。

「読者の反応があることが何よりも励みになる」と発行人の射場鐡太郎さん(79)は言う。4年前に先代からバトンを引き継いだ彼にとって、当時の同人誌は「文学青年たちの夢の場だった」という。「先輩たちの作った集まって話し合える場を潰したくない。いや潰せない」という情熱が、通巻455号を支えてきた。もちろん「良い作品を出さないと読者は失望する」とクオリティへのこだわりも忘れていない。

今年で50年。齢と号を重ねて、作家たちの人生が詰まった『AMAZON』。尼崎の雑誌の偉大な先輩にあらためて敬意を表したい。


取材と文/永井純一
神戸山手大学講師。専攻は社会学、文化社会学、メディア論など。あとロックフェス!