南部再生第42号:もくじ
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フード風土

よそ行きの「グルメ」じゃない、生活密着の「食いもん」を探して、アマを歩く。
取材・文=松本創(本誌)

「ラーメンと街」語る100年中華そば

 やれ、背脂系だ魚介スープだ極太つけ麺だと、めまぐるしく流行移ろうラーメン界。店のスタイルでいえば「作務衣の職人風」「筆文字の人生訓風ポエム」「ご当地性の強調(実は偽史)」が近年の主流だと話題の新書『ラーメンと愛国』は指摘するが、そういう現代ラーメン事情とはまったく違うありようで1世紀を歩んできた店が尼崎にあることを市民はもっと誇っていいと思う。

絶品焼き豚とキクラゲが標準仕様の中華そば800円。そのスープを絡めた濃い味の焼き飯(並)900円。真空パックでの配送や持ち帰りも可。

 1912年(大正元年)創業の「大貫本店」。神戸の旧居留地に開店して今年で100年。尼崎に来て60周年になる。創業年を調べてみれば、明治天皇死去、タイタニック号沈没、中華民国の成立…と、どれも教科書や物語の中の歴史。さすが「現存する日本最古の中華そば」の店だが、ことさらそれを謳うでもなく、街に溶け込む風情がいい。

 「醤油ダレの調合、麺の製法、スープの炊き方…ひい爺さんが、神戸の別の店からスカウトした広東出身の職人さんに教わった時から何も変わっていません」と4代目の千坂創さん(39)。食材も調味料も、当時からふつうに手に入るものばかりだという。

 豚骨と鶏ガラ、昆布や野菜をゴトゴト強火で煮込んだ濃厚な醤油スープ。それをしっかり受け止める卵たっぷりの太め麺は、今も必ず足で踏んで引き締める。店の2階で毎日、千坂さんが行う作業は一種の儀式にも思える。この店の歴史と魂を込めるための。

 が、「何も変わらない」とは、頑なに変化を拒んできたという意味ではない。

 「こんなスープを取ってみたい、新しいメニューを出したいと考えたり、実際に試作することはありますよ。でも結局ここに落ち着くんです」

 時代時代に合わせて試行錯誤し、ベストを選び取ってきた結果として「100年変わらない味」がある。毎日のように通う常連さんは言うそうだ。「味噌汁とご飯は毎日食べても飽きへんやろ。ここの中華そばとやきめしは、それと同じや」と。

 「味の間口が狭い分、奥行きを出すことを考えてきた」と千坂さん。一見、「何も変わらない」中華そばは、醤油ダレの熟成と街の成熟にともなって、日々じわじわと味わいを深めているのだ。

 やはり今年100周年を迎えた吉本興業のベテラン芸人のように。

36軒目 大貫本店

神田中通3-29
11:30〜21:00 水休
TEL:06-6411-9583
www.daikan-honten.com