サイハッケン 10万枚蔵の絵はがき専門店があった。

長く住んでいても意外と知らないまちの愉しみ。「へえ~」と目からウロコの再発見!
ディープサウスの魅力をご堪能ください。

阪神尼崎駅の南、かつて「エンドオ」や「獨木舟」といった趣きある喫茶店があった一角は、再開発で29階建のマンションが建ち、ずいぶん様変わりした。その南側で40年前から変わらず、今も営業を続けるお店「図研」がある。

「好きなものを好きなだけ見ていられるというのも幸せ」という隆次さんは、切手ファンでもある。

たった7坪の小さなお店の棚に収められているのは、10万点以上もの絵はがき。明治後期から昭和初期までの物が多く、テーマは名所、皇室、建物、美人…と細かく箱に分けられている。値段は1枚100円から。中には1万円以上のお宝品もある。「親父がコツコツ集めたものなんです。同業者からも羨ましがられます」と話すのは、中西隆次さん(48)。

元はこの場所で機械製図の仕事をしていた父・洋さんが、絵はがきや映画ポスター、引札(昔のチラシ)などを趣味で集めていたが、いつの間にか古書店になっていた。その父が5年前に他界し、隆次さんは勤めていたスポーツクラブ会社を辞め、2代目店主となった。「若い時は店を継ぐのは絶対嫌だったんですけどね」と笑う。

図研 尼崎市開明町1-17 TEL:06-6411-8279 10:00~17:00 日休

お店には四国や関東など全国から絵はがきファンが集う。ネットオークションにも多数出品し、最近は中国や韓国など海外コレクターからの注文もあるという。

「お客さんがうちの店で欲しい物に出会う瞬間に立ち会えるのは幸せですね」と語る姿から、すっかり2代目店主が板についてきた隆次さん。今でも時々父親が夢枕に出て、仕入れのアドバイスをくれるのだとか。「それがまた当たるんですよ」と隆次さん。

店内には未整理なコレクションもまだまだ多く、母と姉も一緒になって仕分ける作業が続く。まるで亡き父親もそこにいるかのような家族の風景は、「古き良き家族」の絵はがきを見ているようだった。


取材と文/香山明子
最近、ご近所さんたちの間で持ち寄りのごはん会、ポットラックが流行っています。