南部再生第42号:もくじ
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THE 技

温かな手書き文字の味わい守って

 味わい深い手書き看板の職人が立花にいると聞き、南七松町にある板谷克美さん(62)を訪ねた。作業場には舞台やスポーツイベント等の大きな看板がたくさん置かれ、床や壁に残る塗料の跡が、長いキャリアを物語っている。尼崎競艇場の出場選手の紹介看板など、身近なところで彼の仕事を目にしていたことに驚く。

関西広告社
南七松町1-5-3  TEL:06-6416-7716

 しかし、コンピューターが普及して、印刷出力が主流になる中、「手書きの仕事は、私らが最後でしょう」という板谷さん。昔から絵が好きだった彼が、この世界に入ったのは20歳の頃。「グラフィックデザインがしたい」という想いで、看板屋の門を叩いた。「誰も教えてくれないから、とにかく師匠の技を盗むのに必死だった」と、以来40年この仕事一筋。「時間を忘れてできる仕事、上手く書けたら達成感がある」と語る。

 筆を構えると板谷さんの表情に一気に緊張感が走る。様々な筆を使い分け、下書きもせずに一気に書き上げる。

 「例えば同じゴシック体でも、ハネやトメの角度など、ディテールの違いで文字の個性が変わるんです。自分の文字はたとえ何年前に書いたものでも、絶対に判ります。直線を書くことは機械にはかなわないけど、手書きの文字には独特の温かみがあるからね」。

 キャリア40年を越えてなお、「経験を積むほど、こだわりが強くなってきた。目標とする師匠の垢ぬけた文字にはまだまだ届きませんわ」と謙虚な板谷さん。

 一筆一筆、細部にこだわりを見せる手書き看板の世界。まさに「神は細部に宿る」。コンピューターには出せない味わいはこうして生まれていた。

取材と文/岡崎勝宏 1971年尼崎生まれ。工業デザインを志し、気がつけば建築の深みへ、アマ発の建築を考える。