尼崎コレクションvol.14《2頭のグリフィン》

尼崎市内に現存している逸品を専門家が徹底解説。あまりお目にかかれない貴重なお宝が歴史を物語る。

尼崎を見守る2頭の怪獣

庄下川公園噴水池(左) 旧大庄村役場レリーフ(右)

6月3日まで尼崎市総合文化センター美術ホールを会場に「建築家村野藤吾と尼崎展」を開催しました。20世紀を代表する大建築家である村野藤吾が設計した旧大庄村役場(現大庄公民館)と尼崎市庁舎が、それぞれ竣工から75周年と50周年を迎えたことを記念しての展覧会で、市報あまがさきや新聞各紙でも大きく取り上げていただき、建築を勉強されている学生さんなどたくさんの方々にご来場いただきました。

この展覧会で紹介した旧大庄村役場にはいくつか特徴的な装飾があるのですが、そのひとつが1階の南面外壁に貼り付いているグリフィンのレリーフです。グリフィンとは、鳥類最強の鷲の翼と上半身、獣類最強のライオンの下半身を持つ伝説上の怪獣で、太古の昔より西アジアやヨーロッパで数多くの神話や伝説に登場しています。グリフィンには黄金を守る役割があると言われ、知識や王家の象徴として紋章に使われることも多いです。また、映画「ハリー・ポッター」で主人公が暮らしている寮の名前は「グリフィンドール」と言いますが、これは「金のグリフィン」という意味です。

では、なぜ旧大庄村役場にグリフィンのレリーフが飾られているのかが疑問ですね。村野藤吾はこのことについては何も語っておらず想像するしかないのですが、おそらく村役場の守り神のような意味合いがあるのだと思われます。

ところで、尼崎にはもう1頭グリフィンがいます。それも「村野藤吾と尼崎展」を開催した総合文化センターのすぐ近くにいるのです。アルカイックホール西側の庄下川公園にある小さな噴水池に水を流している彫刻がグリフィンです。こちらは、1982(昭和57)年5月に尼崎に来られた、尼崎市の姉妹都市アウクスブルク市の彫刻家ゼップ・マスタラー氏が製作されたもので、翌月に序幕式が行われました。いかつい強面の旧大庄村役場のグリフィンと比較すると、こちらのグリフィンは優しい顔つきで、下半身がだいぶんデフォルメされています。尼崎に住む2頭のグリフィンがしっかりとにらみをきかせて、いつまでも尼崎を守っていて欲しいものです。

展覧会での見どころ
「建築家村野藤吾と尼崎展」のお楽しみ企画として、来館者に旧大庄村役場のグリフィンを描いていただくコーナーを設けたところ、実に100枚以上もの作品が集まりました。右の絵は思わず「座布団1枚!」と言いたくなる作品です。


桃谷和則(ももたにかずのり)●尼崎市教育委員会学芸員
腰・ヒザにサポーターをしないと展示作業ができなくなりました。寄る年波には勝てません。