THE 技 違いが分かる焙(や)き手の仕事

ものづくりのまち尼崎に息づく匠の技の数々。最先端技術、職人技、妙技、必殺技…。
アマから繰り出されるワザに迫る

吉永珈琲
尼崎市潮江2-17-33 TEL:06-6499-0462 9:00~19:00 木休

潮江で暮らす私がずっと気になっていたお店「吉永珈琲」へ。JR尼崎駅北側にある珈琲豆の販売専門店は、通りから見える銀色の焙煎機と麻袋から、珈琲へのただならぬこだわりを感じていた。

お店を経営するのは、吉永龍二さん(59)真美代さん(59)夫妻。幼い頃から珈琲好きだった龍二さんは、18歳の時、旅行先の四国で飲んだ一杯に感動し、その味を追い求めて1979年、今の場所に喫茶店を開業した。

「珈琲を味わうお客の表情を見ながら焙き方を研究した。だから私の師匠はお客さんなんですよ」という吉永さんの焙煎への情熱は燃え上がり、その7年後、お店を豆販売の専門店に変えたほど。

「いい豆でなければおいしい珈琲はできない」というポリシーのもと、お店には最上の豆が約20種類並ぶ。品質を見極める目利きもさることながら、吉永さんの「技」はやはり焙き方にある。

一般的に珈琲豆は焙いてから3日から3週間ぐらいが美味しくなるという。お店ではお客さんの嗜好でその頃合いを選ぶことができるよう、いつも少しずつ焙いている。

地域、気候、運搬方法、保管の仕方などで、まったく異なる豆の品質を見極め焙煎機にかける。中で豆が跳ねる音の違いや焼き目に気を配りながら、熱風の強弱や時間を調整する。

「独学で学んでやっと半人前にはなれたかな。焙煎は一人前がない世界、だから面白い」と吉永さん。今も朝と午後のカップテストを欠かさない。舌の感覚を鈍らせないよう、辛い物やお酒は徹底して控えているという。プロ意識に頭が下がる。

「お茶のように毎日飲んでほしい」。ピカピカのステンレス缶が並ぶ店内。豆を見た目でなく味で選んでもらうために考えられたディスプレイの前で、香ばしい豆の香りに囲まれ吉永夫妻の珈琲話は尽きなかった。


取材と文/岡崎勝宏
1971年尼崎生まれ。工業デザインを志し、気がつけば建築の深みへ、アマ発の建築を考える。