論:尼崎地域の優位性―外部の視点から 梅村 仁

尼崎市役所の名物職員・梅村さんが、今年4月から高知短期大学へ。市役所を退職し研究者の道を歩み始めた彼に、尼崎のことを語っていただきました。

お世話になった尼崎市役所を退職し、はや2カ月が経とうとしている。在職時には、市役所の方々をはじめ、産業支援団体の皆さん、企業の皆さん等に大変お世話になり、多くのことを学ばせていただいた。紙面をお借りし、厚くお礼申し上げる次第である。今後の私ができる恩返しは、尼崎産業の研究を更に深堀し、尼崎の魅力を広く発信することだと考えている。


さて、尼崎を離れ、まだ少ししか経ってはいないが、外部から尼崎をみた感想を述べたい。

一般的な特に関西における尼崎地域の評判は正直それほど良いものとは言われていない。教育的なこと、文化的なこと、地域環境的なことなどについて、市役所在職時からさまざまな声を聞いていた。そして、それらを克服すべく地域一丸となって取り組んできた歴史は重く深い。まちづくりに対する未だ多くの批判はあるが、懸命にまちのビジョンを示し、取り組みを進めてきたことは大いに誇らしいことである。

離れて分かる尼のチカラ

[梅村さんからの近況写真]研究室からお城が見えます。

では、今の尼崎を地方都市に住む筆者の目から見るとどのように写るのか自問自答してみた。その結果、尼崎は素晴らしいまちにしか見えない。都市部特有の重層的な教育機関の立地、関西特有のお笑いの文化から音楽、歴史と非常に幅広い文化的資源の保有、またかつての公害地域を克服した環境都市としての経験、そして、日本経済を支え続けてきた産業集積地域の存在など、わが国の都市が抱える問題をクリアするための下地である地域力、市民力(企業市民も含む)、行政力などは、既に十分な力を持っていると断言できよう。つまり、尼崎地域は、短所を補って余りある長所をまちとして、間違いなく保有しているのである。もちろん、雇用や貧困、財政難等の問題の深さは重々承知しているが、今後のキーワードは、『長所(強み)をいかし尽くす』ことなのではないかと考えている。

「現場主義」を研究に

[梅村さんからの近況写真]今が旬の初カツオは本当に安くて旨い!震えて写真がブレるほど。

例えば、商店街の活性化も喫緊の課題であり、そうした中、市民有志の企画・声がけにより、2011年3月武庫之荘地区で「武庫之荘バル」が開催された(主催:武庫之荘バル実行委員会・尼崎商工会議所)。当初、武庫之荘地区の商店関係者の理解を得ることができるのか、厳しいことも予想されたが、見事に多くの賛同を得て、開催当日も大変な盛況であり、武庫之荘地区のポテンシャルの高さが存分にPRされたものと考えている。特に、様々な世代の方々が集い、お店で行列を作るシーンは、発案者の方の顔が浮かび、感動的でもあった。かく言う私も忘れがちであった、まずは「やってみる!」ことの大切さをこのイベントを通して改めて学ばせていただいた。

そういえば、2003年に企業誘致の仕事を始めた頃、民間企業では当たり前であろうが、飛び込みの企業訪問を尼崎市内をはじめ、大阪市の本町周辺でも何日もやったことがある。当時は、今ほど企業誘致という仕事がメジャーではなく、企業活動の裏側を教えていただく、いわばお忍びのような業務であった。厳しい上司(現・(財)尼崎地域・産業活性化機構の菊川常務、元産業立地課長)の指導の下、始めて短期間に革靴が磨り減ることを体験し、企業の声を聞き、政策に反映させる「現場主義」を学んだことが、今の私の研究スタイルに繋がっており、大変感謝している。

地方都市で光る企業を

[梅村さんからの近況写真]大学の正門。中心市街地にあり、商店街まで徒歩5分。以前より、商店街をよく歩いているかも。

さて、最後に高知における今後の抱負として、私の研究テーマである産業集積は残念ながら、尼崎地域ほど厚さはないが、地方都市の不利を跳ね返し、進展する企業もたくさんある。地方都市の企業が、どのようにこの厳しい経済のグローバル化の中で、活動し地域振興の源として存立していくのか、興味津々である。そのポイントは、高付加価値なのか、ネットワークなのか、あるいは経営者の存在なのか、丹念に事例調査を行い、これからの地域振興・地域政策のあり方をひも解いていきたい。

また、これまで自治体職員として培った経験とネットワークを糧に、良い教師、新機軸の研究者として、そして何よりも地域の方々と共感し、一緒に考え、行動できる人間になれるよう精進していく所存です。これからもどうぞ、よろしくお願いいたします(祈)。

ひさしぶりに晴れ間がのぞく土佐より 平成23年5月25日


うめむらひとし

1964年生まれ、大阪府豊中市出身、公立大学法人高知短期大学准教授。1988年尼崎市役所採用、児童養護施設、秘書課、産業立地課、産業振興課等を経て、2011年3月都市政策課長を最後に退職。神戸大学大学院法学研究科博士後期課程単位取得退学 主な著作(共著):「自治体職員がみたイギリス」関西学院大学出版会、「地域産業政策―自治体と実態調査」創風社(近刊)など

写真からはあまり見えませんが、単身赴任で少し腹が凹みました。