続・ツクラナイマチヅクリ 尼崎城を作ってみたら…

新たに施設を作らずに地域の資源を上手く使ったまちづくりを紹介

城ブームらしい。しかも女性中心に。

昔は城といえば男のロマン、姫路城のプラモデルをつくってこそ一人前の男子、と言われていたはずなのだが、先日、仕事で仙台市に行ったついでに青葉城に立ち寄ってみると、たくさんの女性がカメラを抱えていた。しかも若い女性2人連れ。こうした歴女(歴史好き女子)による底上げのせいか、実際に2008年頃から各地のお城の入場者数は軒並み増加しており、大河ドラマの地元経済波及効果も400億円超と、5年前の同ドラマの波及効果の4倍以上となっている。

我が尼崎もブームにのっからない手はなく、尼崎城を活かして観光客を呼び込みたいところだが、いかんせん、尼崎城趾公園の石垣跡地だけではインパクトに欠け、歴女はとうていきてくれそうも無い。だったら、いっそのこと尼崎城の完全復元を目指すのは果たして可能なのだろうか。そもそもお城っていくらなのだろう。

実は大林組が1983年に豊臣時代の大阪城の完全復元費用を試算しており、これにインフレ率を勘案して現在価額に修正すると、大阪城の天守閣と御殿の建物建築費は257億円となる(※1)。ここから算出される建築単価は坪9百万円 (※2)と一般住宅の10倍以上となる。やはり、宮大工に頼む完全復元はべらぼうに高い(※3)。

で、どこまで尼崎城を復元しようか、となると、どうせやるなら天守閣を含む本丸部分(60間四方)まるごと復元する心意気を持ちたいところ。そこで建坪率50%、容積率100%を前提にして、復元する延床面積は約550坪と考えると、復元費用はざっと50億円。そう、たったの50億円(※4)。市の税収(市税)の6%。尼崎信用金庫の経常利益と同じくらい。

50億円かけてお城を復元したら、観光客はどのくらい来るのだろう。城の規模(=石高数)を魅力度と考えれば、城ブームにわく最近の各地のお城の入場者数の統計をとってみると天守閣建設時の藩の石高1万石高当たりで平常時の年間入場者数は2万人という結果に。となれば、我が尼崎城には年間10万人(1日270人)は入場者数がきてくれそうだ。でも10万人が来たとしても、入場者料500円と考えると年間収入は1億円にも満たず、一方で費用は減価償却費を含めてその5倍以上かかると試算される。つまり、年間5億円の赤字が何十年も続くはめに…。こう考えると、お城をつくるのは非常に難しく、戦国ゲームに尼崎城主・戸田氏鉄を登場させてもらうよう、働きかけたほうが効率が良さそうである。

※1 今のコンクリート造りの大阪城天守閣の建設は現在価額で約190~220億円(昭和6年当時で47万円)かかっているので、相場観は合致します。
※2 平成16年に復元された愛媛県大洲城の天守閣の建築単価は930万円/坪です。
※3 高級高層オフィスビルの建築単価は150万円/坪程度です。
※4 平成6年に木造復元された掛川城天守閣(3層4階)の建築費用は11億円です。


文・齊藤成人
金融機関勤務。「試算だけならタダですから」という齊藤さんに尼崎で作ってみてもらいたい事業を募集中。