描きたくなる尼の風景

風光明媚な名所はなくても、人々が行き交う尼崎には思わず描きたくなる風景があった。1981 年に尼崎美術協会メンバーたちの作品を集めて開かれた「あまがさき30 景展」 を誌上展覧会でプレイバックしながら、30 年前と今の街を見比べてみよう。

玉置利久『工業地帯(大浜町付近)』

大浜町では日油が操業。運河沿いは「尼っ子リンリン・ロード」というサイクリング道が整備され身近なエリアになりつつある。

複雑に入り組んだ鈍色のパイプ、赤茶けた錆肌の建屋の向こうには、鮮やかなツートンカラーの煙突が空を突き刺す。運河に船が行き交うこの風景は工都のシンボルでもあったのだろう。製鉄所や発電所がなくなってからは、これだけインパクトのある場面にはお目にかかれないのが少しさみしくもある。この絵のような躍動感を求める“工場萌え”な人びとの気持ちが少しだけ分かる。

三田耕之『街角(中央商店街)』

アーケードの文字は今も変わらないが、当時目新しかったマクドナルドは、今年8月に惜しまれながら閉店した。時代は移り変わっている。

ちょうどこの頃オープンしたばかりのマクドナルドののぼりが見える尼崎中央商店街(5番街)の風景。「当時は目新しかったなあ」と作者の三田さん(p.10にも登場)。尼崎で最も人通りが多かった当時の活況が描かれている。「この場所を選んだ理由?尼崎らしい猥雑なところが好きだったので」と当時を振り返る。

中尾正一『寺町』

歴史ある建造物が集まる寺町はおそらく、尼崎で一番スケッチブックが似合う場所だろう。描かれているのは長遠寺。奥に見える多宝塔は国指定重要文化財、と画題に不足なし。現在では道路もきれいに舗装され、車の通行も少ない場所なので、心静かに絵筆を進められそうだ。