THE 技 生活感から商品化 アマの発明おばさん

ものづくりのまち尼崎に息づく匠の技の数々。最先端技術、職人技、妙技、必殺技…。
アマから繰り出されるワザに迫る

一歩お店に入ると、洗濯ハンガー、クッション、アイマスクなど生活感あふれる発明品に、表彰楯がズラリ。大阪・西淀川区姫里にある「アイデアスギモト」は、尼崎アイデア研究会で会長を務める杉本和代さん(72)のお店だ。

尼崎アイデア研究会
活動は尼崎市中小企業センターで毎月第4日曜10:30~。京阪神から発明家たちが集まる勉強会は今年450回を数えた。

さっと洗濯物が取り込めるピンチハンガー「楽ちゃん」、顔やせマスク「美クリン」、痔にやさしい温かいクッション「ぢ楽ション」、ダイエットグッズ「やせ帯」など、彼女が手がけたアイデア商品が並ぶ。どれもユニークなネーミングで親しみやすい。

発想の源は「私がずっと欲しかったもの」というように、日々の生活の「困った」や「不便」からアイデアをひねり出してきた。耳栓付きアイマスク「アイミミー」は新幹線の中で、「一緒にするとなくしにくい」とひらめいたそうだ。しかし、ここから商品化にこぎつけるのが、すごいところ。

思いついたら早速試作にとりかかる。材料は身のまわりにある割り箸や買い物バッグなど。

「金型なんかを一から作るとたいそうでしょ。試作からケチケチ精神で工夫しないと。いくら便利でも値段が高すぎるとみんなが使えない、だから世の中にあるものを上手く組み合わせることが大切」

これまで商品化したのは25品。実現しなかったアイデアもある。「失敗は成功のもと。発明には夢があるし、なにより頭の体操にもなる」という杉本さん。最後に聞いてみた。「私にとって発明とは? そりゃ愛ですよ」。誰かの喜ぶ顔を思い浮かべながら、“アマの発明おばさん”は次のアイデアを温めている。


取材と文/岡崎勝宏
1971年尼崎生まれ。工業デザインを志し、気がつけば建築の深みへ、アマ発の建築を考える。