尼の神さま仏さま

市内に66社、約110ヵ寺…「神社」と「お寺」をあわせるとコンビニよりも多いんだとか。だんじりは夏の風物詩だし、寺町周辺はちょっとした観光地になっている。昔からとても身近な存在の由緒を紐解けば、尼崎の違った顔が見えてくるかもしれない。

特選!一度は見ておきたい お寺・神社の名物行事大覚寺 [節分祭]

じつに「ハレの日」ムードあふれる境内の風景。まかれる豆は滋賀県産の有機栽培大豆。元々仮設だった舞台は、狂言復活50周年を記念して2005年に常設化された。

豆の入った枡を手に、尼崎市長、大阪・神戸ドイツ総領事館の副領事、尼崎信用金庫の会長など錚々たるVIPが能舞台へあがっていく。おなじみの「鬼は外、福は内」の掛け声に合わせて来場者の元へ豆が投げ込まれると、境内にあふれかえった人々は自分のほうへ投げてと盛んに両手を挙げる。中には帽子でキャッチしようとする人もいて、みな必死の形相だ。

大覚寺の節分は、数ある年中行事でも最大のイベント。まる1日かけて豆まきと狂言の奉納を行ない、来場者数はのべ2万人とも。狂言は幕末に一旦途絶えたが、1935年頃発見された古文書を手掛かりに復活した、セリフが一切ない珍しいもの。演じるのは大覚寺身振り狂言保存会のメンバー。有志の会ながら、3歳で初舞台を踏み4代続けて狂言師になるツワモノもいる。人と鬼との駆け引きを描く『節分厄払』や、舌を抜く緊張感が独特な『閻魔庁』などの演目は、近隣の幼稚園や小学校の子ども約600人も観覧する。「閻魔庁を見た孫の聴き訳が良くなったと、感謝状をいただいたこともあります」と岡本元興住職は目を細める。

節分に限らず、能舞台では茶会や絵画展などの試みも成功させてきた。「歴史と文化を通して尼崎の誇りを取り戻すには、まず楽しく集ってもらうことが大事だと思っています」。5月には、大物で活躍し、『覚一本平家物語』を完成させた琵琶法師、覚一検校にちなんだ演奏会を企画中だ。

能舞台ではゆかりの狂言も
大覚寺や大物が登場する新作狂言『十王堂』『船弁慶』を含む全6曲を奉納。保存会には3歳から65歳まで22人が参加し、毎月1回の練習を欠かさない。
節分限定の縁起物
昆布をまとった厄除けのお守り「身代わり昆布だるま」(1000円)は日本でもここだけの珍しい縁起物。世阿弥が大覚寺を舞台に作った能楽に由来する「芦刈の破魔矢」などもある。

全国からファン殺到 聖地巡礼の火付け役七松八幡神社 [忍たま絵馬]

若い人の間で「聖地巡礼」が流行っている。とはいうものの、それは宗教的な行為ではない。小説や映画、アニメ等のファンが作品の舞台となった場所や縁のある場所を訪ねるのである。インターネットでの口コミで、数年前から「巡礼者」たちは急増し、今やちょっとした社会現象となっている。七松八幡神社もそんな「聖地」の一つだ。

体育委員長の七松小平太にちなんだバレーボール型のお守り(800円)も登場。

人気アニメ『忍たま乱太郎』には尼崎の地名から名付けられたキャラクターが登場する。七松小平太もその一人で、小平太にちなんで一昨年あたりからファンが同神社を訪れるようになった。当初は「なぜ人がやってくるのか、わからなかった」と宮本聖士宮司はいう。しかしやってくる若者達とふれあうなかで、事情が掴めてきた。「来た人は基本的に歓迎すればいい。喜んでもらえたらいいな」と、市内を「巡礼」しやすいように地図を配布したり、原作者である尼子騒兵衛先生デザインの絵馬を作ったりするうちに、それがブログ等を通じて広がり、さらにマスコミ取材も多く訪れた。

ファンに相談しながらオリジナルお守りやティッシュなどを次々と考案。細やかな遊び心が満載。「こちらもいろいろ勉強させてもらって楽しい」と語る宮司の人柄と心配りがリピーターの心をつかんでいる。

七松八幡神社

JR立花駅から南東へ徒歩5分。●七松町3-10-7