尼の必見仕事人

「働く」かたちが多様化している。ハケンやニートなんて言葉も定着して久しい。昔から「労働者の街」といわれてきた尼崎で出会った仕事人たちの働きぶりは必見です。

尼崎ではたらく仕事人たちに3つの質問をしてみました。

①仕事を選んだきっかけは? ②辞めたいと思ったことは? ③夢や目標は何ですか?

タクシードライバー 景気も空気も読むベテラン

松原豊樹さん(66)植田交通勤務
①仕事を始めた頃は、とにかく稼げるいい仕事だったので ②ないなぁ。自分にはこれだけだよ ③何とか70までは乗りたいね

「尼崎は三交代の工場が多かったから、夜は今でも自転車に気をつけています」と話す松原さんは、今年勤続40年を迎える。すでに定年となり、現在の肩書きは嘱託だが、隔日16時間の勤務を現役時代と同じようにこなす。大事にしているのは接客態度。最初に交わす言葉で間合いを読み、時には黙ることもサービスと心がけている。「抜け道は大体覚えたけど押しつけたくないので、頼まれたときだけ」。バスや電車の利用が推奨され、タクシー離れが進む中、多くの指名を集める裏には客本位の姿勢があると社長も太鼓判を押す。

障害者支援員 仲間と一緒に私も成長できる

丹羽恵さん(29)尼崎あぜくら作業所勤務
①大学時代の障害児保育サークルでの活動 ②ありません。毎日笑えますから ③陶芸のプロになるという仲間の夢に乗せてもらいます

「ぼんやり選んだ」福祉学部の「たまたま入った」サークルで障害児保育の活動にかかわった。そこで出会った子どもたちに「『生きる』ことをすごく感じさせてもらった」のがきっかけに。「大人になった彼らの仕事を手伝いながら、自分も一緒に成長していきたい」と卒業後、今の職場を選んだ。忙しく、お給料も決して高くはないが「彼らと一緒に働くことで、色んな自分が発見できるんです」と迷いはない。温かな雰囲気の工房で、12人の仲間と陶器のお皿やカップなど商品作りに取り組む。彼らの持つ芸術性に日々驚きながら。

ディレクター カメラとマイクを携え街へ

緒方あでのしんさん(31)TVディレクター
①大学では映像学科。映像に関わる仕事がしたいと選んだ ②ない ③カメラも回せるオールマイティなディレクター

子どもの頃からの映画好きが高じて、芸大の映像学科に進んだ。卒業後、ビデオ制作会社を経て、尼崎にあるケーブルテレビのディレクターに。ケーブルテレビならではの地域に密着したニュース番組の取材を重ねた。5年余りで取材件数は軽く1000件を越える。その中でも尼崎の取材は特別だ。「街に出てカメラとマイクを向けるだけで笑わせてくれる。台本いらずの面白さ」という。

「いつかお笑い番組をつくりたい」と夢もある。でも「今は来る仕事は何でも引き受けますよ」。ディレクターとしての修行を積む日々だ。

営業 脅威の新人は自転車に乗って

大先恵さん(25)兵庫リコー尼崎支店勤務
①父も営業職なので、会社の顔として働くことに憧れて ②ないです ③小さい目標は物忘れをなくすこと。大きい目標はいい女性営業になること

入社後間もなく、「大きい看板のところへ行け」という先輩の教えのままに自転車で訪れた病院で、パソコン200台、プリンタ100台を販売した実績を持つ。「売るというより、地域に根ざす病院にほれ込んだ」と大先さん。現場スタッフとの信頼関係から舞い込んできた見積りの依頼に、連日3回通い詰め商談をまとめた。交渉の矢面に立つ彼女を、スポーツ選手を支える専門家集団のように営業グループが全面バックアップ。「さりげない気配りが魅力」と上司も認めるルーキーは、周囲の期待を背にペダルに力を込める。

布教使 生活感のあるお坊さん目指して

宏林晃信さん(38)浄元寺住職
①中学校の時に出会った布教使の迫力に圧倒されて ②「袈裟を脱ごうと思ううちは続けなさい」私の杖言葉です ③歌って踊れる坊主

法話や講義に近畿各地のお寺を飛び回わる若き住職。「楽しく、面白く、ありがたい話を心がけています」と浄土真宗本願寺派の布教使として仏の救いを伝える。軽快で滑らかな語り口はまるで噺家。「芸人と間違われることもある」ほど親しみやすい雰囲気は型破りとも言われるが、笑いを交えながら老若男女に語りかける。

西本願寺ホームページでは『お坊さんがゆく!』と題した番組のリポーターとして、仏事の素朴な疑問を紹介。「何よりも生活感覚を大事にして語りかけていきたい」と自分しか出せない味わいを追い求めている。