THE 技 時計直して半世紀。職人の腕は今もなり続ける。

ものづくりのまち尼崎に息づく匠の技の数々。最先端技術、職人技、妙技、必殺技…。
アマから繰り出されるワザに迫る

立花駅の南、フェスタ立花を抜けた所に時計の修理専門店がある。2代目になる店の主は中川正一さん(70)。この道54年の職人だ。「親父がすごい職人で、殴られながら時計の技術を叩き込まれました」と笑う。

街の時計屋さんには、何百万円もする超高級時計の修理依頼はそう来ないが、親の形見など、思い出が詰まった大切な時計の修理を数多く手掛けてきた。阪神淡路大震災の時には、学校の大きな振り子時計の修理に走り回ったという。

この日見せてもらったのは、機械式腕時計の修理。まぶたに宝石鑑定士がつけるようなメガネをはさみ、慣れた手つきで、小さなドライバーで小さなネジを回す。フタを開けると中には歯車やネジやらが…。「写真を撮るにはこの時計の方がきれいですね」と裏側を見せてくれた。小さなスペースに、無駄を省いた機能美が詰まっている。

中川時計店
尼崎市七松町1-10-15 TEL:06-6416-5594

「これがアンクルで、これが振り石。ガリレオの振り子の原理が使われていてね…」と熱のこもった説明が続く。300年以上も昔の技術が蓄積されてるのかと思うと、どこか感慨深い。どの時計も針を動かす仕組みは同じだが、いい時計はそれぞれの部品の精度が高いのだという。「正確に時を刻むのが時計の役目。だから、いい時計の条件は何よりもくるわないこと」。

1969年に電池式のクオーツ時計が登場してから、誤差はほとんどなくなり、製造技術は格段に進化したが、機械式時計に触れる技術者の層は薄くなった。修理はメーカーが請け負い、個人店には修理よりも電池交換の注文が増えた。「電池の交換なんて誰でもできる」という中川さん。やはり機械式時計を前にすると、職人の腕が鳴るんだとか。


okamammoth
1971年尼崎生まれ。工業デザインを志し、気がつけば建築の深みへ、アマ発の建築を考える。