論:運河が変わる 兵庫県阪神南県民局県土整備部 尼崎港管理事務所長 高橋 秀文

さちかぜ
尼崎港管理事務所には、兵庫県が所有する調査監督船『さちかぜ』が停泊している。団体で申し込めば、海からのみなと学習も楽しむことができる。

表示板に刻まれた歴史

昭和25年9月3日午前11時頃から尼崎市内は、暴風圏域に入り台風の上陸に伴い海岸線一帯に3.5mの高潮が押し寄せ、午後3時頃には国鉄東海道線(今はJR神戸線)以南は全て海に沈んでしまった。被災人口は約24万人(当時の総人口の85%)、被災面積は、約70%という惨状であった。これが、ジェーン台風の被害概要である。この時の浸水の高さを示す表示板が、阪神尼崎駅前とセンタープール駅前に立っている。

水運に支えられた発展

昭和初期より運河域には、阪神工業地帯の中核をなす重化学工業関係企業が張り付き、水運を大いに利用して発展してきた経緯がある。そのような状況のもと、企業の荷役作業に影響がなく併せて地区内の排水が良好になる運河内水位の設定ができる等のメリットを重視して、閘門と防潮堤との併用方式でもって改修し今に至っている。

我が国の高度成長時代を支えてきた当地域も、昭和40年代には全国的な大気公害という社会問題のなか、当地域も煤煙における大気汚染の波にさらされた。我々の先輩諸氏の方々も当時を振り返ると現場へ行くと“すす”で作業着が汚れたと聞いている。ところが今や、作業着が大気で汚れることもなく青空がすっきりと眺めるようになっている。

変化する土地利用

また、特にバブル崩壊後我が国の産業構造も重厚長大型から軽薄短小型に産業構造も移行することにより、運河域周辺での立地企業の業種も大きく様変わりをしつつある。最近では、松下電器産業のプラズマディスプレイ工場の進出が特に目新しい。また、“21世紀の森整備事業”の一環であるスポーツの森・尼崎の森中央緑地も昨年開園するなど、ますます土地利用状況が大いに変化を来す様相をなしている。

運河は使う時代に

このように運河周辺は、従来型の企業とともに新たな社会ニーズに伴う企業群の立地という変化が現れている。また、環境面においても大気環境改善により空気も清浄化されている状況である。このような背景のもと、運河域の利活用のあり方も今後検討する時期にきており、今年の3月には、国土交通省主催、兵庫県・尼崎市・神戸新聞社共催によるシンポジウム「にぎわいと潤いあふれる“みなとまち”へ―尼崎運河の活用を考える―」が開催され、参加者からの見識深い提案を頂いたところである。

一方、兵庫県も「21世紀の尼崎運河再生プロジェクト(仮称)」として国土交通省よりこの4月19日に認定していただき、今後運河の利活用を有識者や地元企業及び住民代表者からなる協議会でもって検討して参りたいと考えている。

2005年に開催された『運河ビヤガーデン』
尼ロックを船で通れば、水位差が体験できる

尼崎にしかない資産

尼崎閘門や尼崎運河は、主に高潮対策及び産業基盤としての尼崎市における近代から現在に至る貴重な社会財産と思われる。よって、この社会資産を今どう生かすかを考えることは大変重要なことと考える。昭和40年代における大気公害のイメージを大いに払拭し、運河を多くの方々の憩い場にするためにも、「21世紀の尼崎運河再生プロジェクト(仮称)」が皆様方のご協力のもと邁進する所存です。大いに期待してください!


たかはし ひでふみ

1951年京都市生まれ。神戸大学工学部卒業。75年に兵庫県庁入庁。主に土木、河川畑を歩み、龍野、社など各地の土木事務所に勤務。2006年7月から現職。尼崎港こよなく愛し、運河の再生を夢見る。趣味はスキー、囲碁。スケッチで港の風景を描くことも計画中。神戸市東灘区在住。