名言とまちへ 第6回

巨匠の言葉は、万人の心をつかんできた。彼らが生み出した名言・金言は、ここ尼崎南部でも感じることができるのか。まちへ繰り出し検証。「巨匠センセー、これってそういう意味ですよね?」

色彩は生の喜びである ―ブルーノ・タウト

ブルーノ・タウト(1880-1938)
ドイツ生まれ。建築家であり都市計画家。ナチス政権下の東ドイツからの亡命後の約3年半を日本に滞在した。日本の伝統美に感銘を受け、建築以外に竹や和紙など伝統素材を使った工芸作品を制作した。桂離宮を彼が著書で絶賛したことが日本内外からの着目に繋がった事は有名。

食卓を彩るは春野菜。マチを彩るは沢山の花。花屋の店先に所狭しと並ぶ色とりどりの花達や街路樹の新緑に、思わずうっとり吸い寄せられる。

尼宝線を通ると目に飛び込んでくるのが「トミオカ種苗店」。その名のように種と苗を主に扱うため、花屋や造園のように、色が溢れているわけではないが、目が引かれてしまうのはなぜだろう。

「緑の相談所ではない」といいながらもつい熱のこもった説明になるご主人。それだけこだわりが強い証拠である。「土が大事。栽培のために改良するなら地球の底まで掘るつもりで」。農家が購入する程に品質の高さを誇る苗が、みずみずしい生気を湛え、様々な緑をアピールしていた。

無機質で色が少ないと捉えられがちな工場地帯でも、春の色彩は見つけられるだろうか。工場地帯にも黄色に塗られた手すりや赤・青のパイプのように、意外と鮮やかな色彩は存在する。緑化協定により雑然とではあるが植物も増えている。がしかし工場地帯の硬いイメージは拭いきれない。ふと惹きつけられたのは尼宝線を更に南下した工場地帯の一角。ガードレールやフェンスなどの工事資材が置かれた周囲を、ピンクの花が咲き誇る花壇が取り囲んでいた。単なる資材置き場に、誰が?何の目的で?ただ言えるのは、鮮やかな色彩に目が惹きつけられ、ともすればゴミゴミとした風景も目に入らなくなるから、その威力は大きいということ。植えた人がその効果を狙ったかどうかは定かではないが。

画家か建築家かと自問した時期があるほどに、色彩を重視した建築家ブルーノ・タウト。生涯で手がけた1万2000戸にも及ぶ住宅群では、連棟建ての各戸に違った配色を用いたり、部分的にアクセントとなる色をさすなど、色彩効果を巧みに採用しているが、これには批判の意見も多い。同様に日本の現代の建築でも、色彩を町並みから浮かずに取り入れることは難しい。けれども、植物の色はその難題を楽々と乗り越えてくれる。尼宝線沿いのピンクの花が物語っていた。植物はまさに生の喜びを映す色彩なのだから。


綱本琴●つなもとこと
主婦、一児の母。伝統技術を持った職人さんと人々を繋ぐ「町家発ほんまもんの会」スタッフ。