南部百景 第32景 遠藤さんの思い出

阪神尼崎駅の南側では、再開発のためいくつかの建物が姿を消すという。こんなとき絵描きのはしくれにできることは、ありし日の姿を描き留めることぐらい。喫茶店を訪ねて話を聞いてみることにした。■綱本武雄

一度で最大50杯を煎れられ、保存もできる「コーヒーアーン」は、震災でひっくり返っても持ちこたえた代物。メーカーは廃業しており貴重な存在だが、ちょうど寿命なのだとか。

打ち合わせや休憩に最適な、ゆったりとした店内。常連のひとりは「駅前すぐの場所にこの店があることが自慢だったのに」と残念そう。

(左)壁や天井を彩るランプは老朽化のため扱いが難しく、電球は「誰にも替えさせない」そう。
(右上)クラシックの調べで店内を満たすスピーカー。「ぼわっ」とした音像だからか、聴き疲れしない。
(右下)ベイマツで作られた八角形の柱。根元の部分は虫食いで腐ってしまったため、コンクリートで作りかえられている。

昭和23年ごろ開店。当初は20席だったが、拡張と改装を経て現在の姿に。ダンスホールや映画館、官公庁が建ち並んでいた阪神尼崎駅界隈で、ひときわ出入客の多い店としてにぎわった。4月27日に惜しまれつつ閉店。