レポート:Pの衝撃 世界最大の工場は尼崎に何をもたらす?

誰もが知ってる巨大工場ができたり、何だか大きなプロジェクトが動きはじめたり、近頃、臨海地域がにぎやかだ。ばい煙や公害といった負のイメージから工業地帯はどのように変わろうとしているのか。ちょっとマジメに阪神工業地帯の今を見つめた。

写真:兵庫県西宮土木事務所提供 2006.10.31撮影

阪神工業地帯の要として発展してきた尼崎臨海部が、ダイナミックに変容している。高度成長を支えた重厚長大産業の工場群の中で、独自の存在感を放つのが松下電器産業のプラズマ・ディスプレー・パネル工場だ。

2005年秋にできた尼崎第1工場に続いて、今年7月には第2工場が稼働。09年には第3工場も生産を始める。4工場あわせて年産能力は約2千万台(42型換算)。プラズマの世界需要の6割に相当する。尼崎は「世界の工場」に飛躍する勢いだ。

05年の尼崎市の製造品出荷額は約1兆3千億円だが、県の推計では3工場が稼働すればほぼ倍増するという。既存の重厚長大型産業も負けてはいない。新たなニーズに対応する形で生産構造を革新させ、フル生産を続ける。

環境を破壊し、公害という負の遺産を生んだ工業地帯。産業構造の転換で、すさまじい産業公害は去ったが、残されたのは活気の消えた空き工場や荒廃した跡地だった。そんな中、松下が魔法の杖のごとく大地をたたくと、企業の立地が始まった。景気回復が追い風となって、立地の波は阪神、播磨の工業地帯全域に波及。06年度の兵庫県の工場立地件数は日本一になった。

「オールド・インダストリアル・エリア(老朽化した工業地帯)」の再生は世界共通のテーマだ。プラズマ効果で企業の進出には弾みがついた。その一方で、臨海部に豊かな森を育てる「21世紀の森構想」が進み、縦横に走る運河をまちづくりに生かす事業も動き始めた。目指すは環境と産業の一体再生。尼崎の挑戦に世界が注目している。