サイハッケン 山のない尼崎にアルプスがあった。

長く住んでいても意外と知らないまちの愉しみ。「へえ~」と目からウロコの再発見!
ディープサウスの魅力をご堪能ください。

武内宿禰(たけのうちのすくね)『古事記』および『日本書紀』に登場する。大和朝廷初期に5代の天皇に244年間仕え、国内を平定した。300年生きたとも伝えられ、長命としても有名な人物である。

ポールを持って高さを計測してみた。およそ1.6メートル。

お天気のよい週末となれば、リュックサックを背負ったハイカーたちの出番だ。中高年を中心に今やハイカー人口は750万人とも言われる。団塊世代の定年退職が始まる今年は、さらに増えそうだ。山登りの手始めに「まずは裏山から」と近くの山から始めたいところだが、わが尼崎には山がない。南部地域のほとんどは海抜ゼロメートル地帯。平坦な街からは、西宮、宝塚方面の六甲山系が臨めるだけである。

そんな尼崎に「山がある」との情報が寄せられた。確認のため、早速その「山」へと足を運んでみた。ところは道意線沿い、国道2号線を少し南へ下った菜切山交差点。南西の角地に低いフェンスで囲われ、ちょっとした鎮守の杜の風情が漂う巨木が生い茂る場所があった。フェンス前の立て看板に書かれた由来によると、この山は菜切塚と呼ばれ、大和朝廷の大臣、武内宿禰の墳墓だとか。

市内6低山(大塚山、猪名野山、栗山、富松山、武庫荘山)をめぐる登山イベントが2005年に企画され、登山証明書まで発行された。「今後も継続して開催したい」と主催した西川春敏さんは意気込む。

この地の所有者は浄専寺(浜田町)をまもる武内家。宿禰の子孫にあたる、住職紹晃さんよると、武内家に伝わる古記に武内宿禰が退官後のこの近くに暮らしたと記されているそうだ。「いつ頃かは不明ですが、塚として作ったものなので自然の山ではないです」とのこと。とはいえ、形状は確かに山っぽい。日本最低峰、大阪天保山(標高4.53M)など、全国には低さを競う低山登山を楽しむ人たちもいるようだ。

情報を寄せてくれた尼崎文化観光協会会長西川春敏さんは、菜切山のほかに5つの古墳などを山に見立て、尼崎アルプス低山と名付け、登山イベントを企画。「臨海部の「尼崎の森』に7つ目の山を作って欲しい」と山への熱い想いを語ってくれた。

本格的な山登りほど体力は消耗しない。古くから伝わる歴史を感じながら、軽いウォーキング気分で尼崎アルプス巡り。コースは超初心者向けだ。 ■香山明子


菜切山