この尼崎本がすごい!30冊小説

無人島にも持っていきたい尼崎を感じる本30冊を選んだ。小説、エッセイ、地域本、ジャンルは様々、レビュアーも色々。ベスト30一挙紹介。

小説

城下町、ドヤ街、はたまたヤンキーの街まで。強烈な街の個性は、登場人物にも負けないくらい印象的。近所が登場するとなんだか嬉しいものだ。


出屋敷に咲いたひと夏の切ない恋『うたかた』

田辺聖子/講談社/出屋敷界隈をうろつくチンピラ卓次が、分不相応な恋をした。相手は天使のような娘。身はうたかた(泡沫)でも、思いは決してうたかたならじ。だが、ある日、彼女が姿を消して…。卓次が作者のナベちゃんに語り聞かせるひと夏の切ない恋話。闇市あがりの商店街、工場の煙、人々のいがらっぽい心。尼崎の下町暮らしから生まれた初期短編。ユーモア長編『夕ごはん食べた?』にも下町の味わいが。(MJ)


夫の死問い続ける尼崎女の情念『幻の光』

宮本輝/新潮社/阪神電車の線路で、ある夜突然自ら命を絶った夫。再婚し能登へ移った後も、女は線路をとぼとぼ歩く夫の背中を思い密かに問い続ける。なんであんたは死んだんや。東難波小に一時通った宮本輝の初期中編。国道沿いのトンネル長屋や祖母の蒸発など体験に基づく描写も。(MJ)


尼崎に住む善人は権力に屈するのか『白い巨塔』

山崎豊子/新潮社/今さら語るまでもない社会派の名作。2003年に5度目の映像化でTV放映され、高視聴率をとった。権力への飽くなき欲望をむきだしにする主人公財前が住むのは夙川の山の手。登りつめれば芦屋の六麓荘か。その医療ミス裁判に大きくかかわる、貧窮した証言者の住むまちが尼崎。(TM)


ロリータ少女の甘くて強い友情『下妻物語 ヤンキーちゃんとロリータちゃん』

嶽本野ばら/小学館/様々な異能を輩出する尼崎出身のロリータ・ファッション娘桃子。稀有な才能の持ち主である。それは、茨城県下妻市にすむヤンキー娘いちごとの友情の結び方においてもそうであり、我がまちの心の深さが生み出した傑物なのである。(TM)


アパッチもねらった鉄鋼都市『日本アパッチ族』

小松左京/光文社/焼け野原の大阪に現れた食鉄人アパッチ。肉体までも鋼鉄化した超人は、尼崎へと居留地を拡大。神戸、横浜、北九州…鉄の街を占拠する。小松左京(p09)の処女長編。1950年代に大阪・砲兵工廠跡に実在した屑鉄泥棒は、開高健、梁石日の作品にも登場する古典モチーフ。(WK)


この世ならざる尼崎での日々『赤目四十八瀧心中未遂』

車谷長吉/文芸春秋/病肉をひさぐ者、刺青師、娼婦…舞い降りた美女。この世とあの世の狭間に生き腐れる、面妖で、そこはかとなく懐かしい人々。しかし、6年後に訪れた主人公の前にそれらは跡形もない。夢のような尼崎の物語であった。(TM)


商店街愛あふれるアマのミステリー『ロクさんの事件簿』

橋本敏信/新生出版/ペットショップ店主が連続殺人事件へと巻き込まれる。舞台はもちろん尼崎。随所に見られる痛烈な商店街批判の視点は、中央商店街で婦人服店を経営する著者が描いた街の現実。商店街に明日はあるのか。再生への想いが行間からにじみ出る。(WK)


[ブックレビュアー]
CO=大迫力 KM=加藤正文 KA=香山明子 MJ=松本創 TM=田中正郎 TT=綱本武雄 WK=若狭健作