フード風土 19軒目 キッチンカフェ旬

よそ行きの「グルメ」じゃない、生活密着の「食いもん」を探して、アマを歩く。

下町洋食屋の実力 阪神系オムライス

焼けた肌に白い歯きらりの町田さん。もちろんトラファン。

洋食屋の実力はオムライスに訊け、という。いや。ハンバーグとかコロッケとかいう意見もあるのだが、筆者の周囲では圧倒的に「オムライス!」だった。で、彼らは答えたあと照れたように頬を緩める。あるいは可愛く小首を傾げるのだ。「人は人生に2度オムライスを食べる」と物の本にあった。「2度」とは子供時代と老いた後。幼き日々の面はゆい純情を卵が優しく包み込む。そういう食べ物なのだ。

阪神出屋敷駅の南にある洋食屋「キッチンカフェ旬」で以前食べたオムライスが印象的だった。店主の町田修二さん(46)は「その日ある物を生かして極力シンプルに作ってます」というけれど、随所に洋食屋ならではの腕とセンスが光る。

ぽってり厚みのある木の葉型に収まったチキンライスは、「白ご飯では味がボケるから」とオリーブオイルを混ぜて炊くバターライスを使用。具は基本の鶏肉や玉ねぎのほか、細かく刻んだズッキーニやパプリカ、マイタケ…。味付けはケチャップだけというのに、この豊かな風味。昼のセットはサラダとスープ、コーヒーも付いて840円。文句なしである。

店の向かいは高校野球の愛媛県勢の定宿。監督や球児が必勝祈願のカツカレーやカツサンドを食べに来るという。

真っ白な皿の上で黄色く輝く卵。そして鮮やかなケチャップの縦じま。これは?もしかしてトラ…?「いやいや(笑)でも、阪神との縁は深いですよ」

出屋敷界隈で生まれ育ったという町田さん。4年前自分の店を出すまでに、阪神百貨店直営のレストラン、甲子園球場内の関係者向け食堂、さらに阪神が経営する「ブルーノート大阪」にも勤めたというから、完全に「阪神系シェフ」なのである。

夜は焼酎や泡盛のボトルが行き交う創作居酒屋風に変わるが、「お酒の締めにオムライス、という人も結構いますよ」。

要望があれば女子に人気のふわトロ風や、ケチャップの代わりにカレーをかけたりするアレンジも。夜限定ながら、あんかけの「和風じゃこオムライス」も根強い人気だ。

が、それでもやっぱり基本のオムライスはシンプルに、質実剛健に。「阪神風」の味わいに惹かれるのである。 ■松本創


19軒目 キッチンカフェ旬

南竹谷町2-21
10:00~14:30
17:00~22:00
日曜定休
06-6418-0170