論:ものづくりの底力は尼崎にあり ヤマシタワークス社長 山下 健治

ひときわ元気なものづくり企業が尼崎にある。その名も「ヤマシタワークス」。不可能とされていた複雑な形状の金型の表面を瞬時に、そして滑らかに研磨する特殊な装置の開発に成功したことで知られる。若手社員にやる気を植え付け、技術力を高め、経済産業省の「元気なモノ作り中小企業300社」にも選ばれた。昨年末にはタイにも進出。「尼崎にはものづくりの底力がある」と話す社長の山下健治さんに縦横に語ってもらった。(聞き手・加藤正文)

日本の企業はなぜ強いか

人材育成に高い評価
数値制御の旋盤を操る女子社員を指導する山下社長。

トヨタや日産、ホンダ、ダイハツなど自動車メーカーがアジアに出ている。「ぜひ、進出してほしい」と強い要望があり、初の海外拠点して「アジア・ヤマシタワークス」をタイの工業団地に立ち上げた。

現地採用が20人、日本から4人。これまで操業させてきて思うのは、日本企業の強みだ。中国やタイにしても、かなり技術力が上がっているものの、やはり、よい意味で「日本の常識は世界の非常識」というふうに思う。

納期、品質、どれをとっても抜きんでている。品物にバラツキがなく、検査システムがしっかりしている。約束に対して誠実という日本人の気性もあるだろう。私が言い聞かせているのは、「ものづくりイコール信頼」だということだ。

今回、経産省の300社に選ばれたのもそうした姿勢を評価していただいたと自負している。

〈300社に尼崎から選ばれたのは、ヤマシタワークスを含む4社。ほかには、避雷針製造で有名な音羽電機工業▽特殊なプレス成型技術による精密部品製造セラ▽プリント配線板用特殊薬品を製造するメック〉。

みなさん、そうそうたる技術型企業ばかり。光栄なことだが、尼崎で生まれ育ってよかった、とあらためて思う。ものづくりは終わりなき作業。精進していこうと思う。

人材育成がカギ

この世界に入る以上は、性根を据えてもらわなくてはならない。企業は人なりといわれるが、中小企業にとっては育てることが大切だ。面接でもプータロー風の若いやつが、だらりとした雰囲気で入ってくると、一喝する。「その態度はなんや!」。しかられたことがないのか、かなり驚かれるが、「うちは厳しいぞ」と言って聞かせる。

現場には、ボクシングに打ち込む若者もいるし、若い女の子もいる。みんな、きっちりとけじめをつけて働いている。ここはいわば、「人間道場」。ものづくりにはこれが大切だということを分かっておれば、今の若者でも大丈夫だ。

会社を立ち上げて20年。ここまで成長できたのも中小企業の街・尼崎の風土によるところが大きい。商工会議所、工業会にいけば、情報がよく入ってくる。オンリーワンの技術をもつ企業もあるし、異業種交流も盛んだ。

これからもこの尼崎で、ものづくりの神髄を追い求めていきたい。


やました けんじ

1957年尼崎市生まれ。下坂部小、小田北中、県立尼崎工業高校を経て、森永製菓塚口工場に入社。86年に会社を設立し、89年に株式会社化した。