フード風土 17軒目 たいやき

よそ行きの「グルメ」じゃない、生活密着の「食いもん」を探して、アマを歩く。

「春は苦味を盛れ」と和食の世界ではいうそうだけど、そんなはんなり高級料理は縁遠い。いっそ正反対に甘味を追求してみるか。「チョイアマ」特集号だし…で、浮上したのがたい焼き。実はちょっとあんこ苦手なんですけどね。

阪神尼崎駅構内に10数年前までたい焼き屋があったらしい。毎日毎日鉄板の上で焼かれてイヤになっちゃうたい焼き君を、毎日毎日仕事や学校に疲れたお父さんや坊ちゃんお譲ちゃんが行列して買って行ったそうだ。いまはすぐ目の前の尼センに移転して、変わらずほわっと甘い香りを漂わせている。

屋号を「二万翁」という。24時間に2万を越す句を詠んだという井原西鶴の別号。「店名の由来?知りません」と売り場責任者の服部綾一さん(26)はいうのだが、その量産体制はしっかり受け継いでいる。6個1列の合わせ鉄板に次々と生地を流し込み、あんこを乗せてパタン。これを休まず延々と。1日2000個。「1個60円でこの味。駅前土産の定番です」。夕暮れ時、きょうもまた行列ができている。

1日2000個。駅前の定番
二万翁
尼センデパート内 第2・3木曜定休 06-6412-5701
頑固一徹。手焼き職人
小椋商店
三和本通商店街内 三和書房北側

たい焼き君になった気分でゆらりゆらり商店街を漂っていくと、小さな屋台があった。頑固そうな親父さんが、植木ばさみのような道具の柄を何本も握っている。見るからに重そうな、年季の入った鋳物。先端のたい焼きの型をガス火にさらして焼く。淡々と、正確に。1分半できっちり10個の早業。

重いでしょう、疲れませんか、それ。大将の小椋武美さん(73)に聞くと、「大したことない。体で覚えてるからな」。40代から10数年続けたこの商売を昨秋、18年ぶりに復活させたという。「あんこも生地も昔ながらの自家製やで。最近の味には負けへん」。ぱりっと薄い生地はなるほど、最近主流のカステラ風とは異なる。もなかに近いといえばいいか。甘さだけじゃない、あんこの味わい深さである。■松本 創


二万翁

尼センデパート内 第2・3木曜定休 06-6412-5701


小椋商店

三和本通商店街内 三和書房北側