THE 技 一筆入魂 プロの文字技

ものづくりのまち尼崎に息づく匠の技の数々。最先端技術、職人技、妙技、必殺技…。
アマから繰り出されるワザに迫る

提灯・のれん・旗 文字一式「隆屋」西難波町4-6-41 06-6401-6616

「字を練習するには『永』という字がいい。跳ね、払い、止め、全て入っているから」。国道2号線沿い、創業80年の提灯屋「隆屋」の主人、生田トシ子さん(60)が教えてくれた。

「三姉妹で私が一番字が上手だったから」と家業の提灯屋を継いで35年。提灯やのれんといった「店の顔」を雰囲気に合わせ、分かりやすく文字や模様で表現する職業は、今でいえばグラフィックデザイナー。「デザイナー?そんなかっこええもんとちゃう」と照れるが、書体をかき分け、文字の大きさや字間の取り方を選ぶのは、ビジュアルセンスと経験に裏打ちされた職人技だ。

カツオ節のような「削り墨」をじっくり時間をかけニカワで溶く。手軽に使える塗料もたくさんあるが「きれいな黒い色が長持ちするから」と手間を承知で愛用している。でこぼこの提灯に文字を入れるためには、筆を継ぎ足し、なぞるように書いてしっかりと黒をのせていく。書道の悪い例えで「提灯屋のなぞり書き」という言葉はここから来ているらしい。書き終えると、実際に灯りをともして墨のノリやムラを細かくチェックする。

40年前に始めた書道は自らも生徒を抱えるほどの腕前だが、「とにかくまだまだ勉強したい」と今も習い続けている。「墨つながり」の水墨画も始め、美術館にも出品するほどのハマリよう。「仕事と芸術はまったくの別もん。提灯屋では、私が書きたいもんじゃなく、お客さんに満足してもらえるもんを書く」と割り切っている。

ビニールにプリントした安価な提灯が出回るなか、格段に時間も手間もかかる手づくりの提灯。「手書きでしか出ない雰囲気がある」と筆を取る彼女の技が、神社の祭りに並ぶ灯りに一層の深みを与えているのだろう。


okamammoth
1971年尼崎生まれ。工業デザインを志し、気がつけば建築の深みへ、アマ発の建築を考える。