名言とまちへ 第4回

巨匠の言葉は、万人の心をつかんできた。彼らが生み出した名言・金言は、ここ尼崎南部でも感じることができるのか。まちへ繰り出し検証。「巨匠センセー、これってそういう意味ですよね?」

人生は短くして書物甚だ多し 柳田国男

民俗学者 柳田国男 (1875-1962)
兵庫県神崎郡生まれ。幼少から文才を発揮し、就学後に数々の省庁を遍歴。伝統的な習俗を系統立てた研究をすすめ、日本民俗学の祖と謳われる。交友には島崎藤村や田山花袋がある。

午前9時。「おはようございます」と声を掛けながら返却ポストを片付ける職員。一歩遅かった!ここ市立中央図書館で開館待ちをする人の様子を観察しようと目論んでいたのだが、すでに人の波は館内に。まだ薄暗い内部の賑わいは新聞・雑誌コーナーに集中している。本日の新聞をまわし読む人、スポーツ新聞を読む人、それらをとり損ねたのか手持ち無沙汰に女性誌をめくる人など。多くの蔵書が控える書架に彼らを惹きつける魅力はないようだ。

上階はどうか。専門書が並ぶ部屋に人の姿はない。隣の閲覧室では部屋角で分厚い参考書を積んだ青年や、パンパンの筆箱を片手にノートを広げる初老の男性、さっそくトイレに行ってきたのかポケット周囲を濡らしながら入室する老人の姿。通路奥のくつろぎコーナーで、来て早々に自前の水筒とみかんでくつろぐ人。開館待ちはざっと20人だったか。だが書架間は閑散としていて、聞こえるのはカウンターで作業をする音と新聞をめくる音ぐらいだ。朝のしんとした空気と同時に、果たして並んでまで図書館に来る必要があるのかという疑問を感じた。来館者をつかまえて尋ねると「色んな新聞が読めるしな。日課みたいなもんで大体毎日来るな」という答え。夫婦連れを見かけ、ふと先程まで男性ばかりであったことに気付く。女性はまだ家事に追われる時間ということか。

公共施設の進んだ北欧諸国では開館前や休館日に利用できる新聞や展示コーナーが設けられ、さらにはカフェやバーが併設されるなど図書館は地域拠点として機能が多角化しているが、そういった機能はなくてもリタイアした地域の男性陣には十分に日々のリズムを提供しているようだ。1時間ほどでカウンターには図書の貸出・返却や予約本をチェックする人があらわれて館内の空気がざわつき出す。書架間にも人が回遊し、閲覧室では今日のノルマか一冊の本を手に席につく人も見られた。ようやく図書館の本達も動き出した。

柳田には生涯莫大な量の著作がある。これらの著書を読み尽くす自信もないのだが、その柳田にして「読み尽くすにはあまりにも人生は短い」と言わしめた世の中の書物。余暇の空間に変わりつつある図書館で、現代の我々は生涯どれ程を読破できるのか。


綱本琴●つなもとこと
4月より専業主婦に転職。伝統技術を持った職人さんと人々を繋ぐ「町家発ほんまもんの会」スタッフ。