名言とまちへ 第3回

巨匠の言葉は、万人の心をつかんできた。彼らが生み出した名言・金言は、ここ尼崎南部でも感じることができるのか。まちへ繰り出し検証。「巨匠センセー、これってそういう意味ですよね?」

都市と農村は結婚しなければならない エベネザー・ハワード

直接農家から買い付けた野菜が、詳しい説明とともに並ぶ

都市と農村のウェディングプランナー

「今の時期、畑行ってもする事ないなあ。食べる時に大根掘るくらいやわ」。ある昼下がり、阪神電車内でのおばちゃん二人の会話。かつては農業地帯だった尼崎だが、いまどき街なかを走る電車でそんな”畑談義“を耳にするのは新鮮だ。

「でも、日本ほど自然に恵まれたところはないでしょう。30分車を飛ばせば豊かな自然と向き合えるんですから」というのはJR立花駅近くで衣料品店「ひろしまや」を営む峯松良治さん。「”食の本当“を知ってほしい」と3年前、洋服が並ぶ店舗2階の一角に有機野菜などの販売店「野菜庵」を開いた。旬のものしか置かない。価格は栽培農家の言い値を尊重する。構想は20年前からあったが、服を買いに来たお客さんへのプレゼント用にと、信頼できる農家から有機野菜の買い付けを始めたのがきっかけになった。反響は大きく、「売ってほしい」という声が多く寄せられたそうだ。

野菜庵の1年後には、店で扱う野菜の美味しさをその場で味わえるカフェフェリーチェをオープン。兵庫県産の有機野菜と三田牛が溶け合った辛口ルーに、甘味ある発芽玄米が調和するカレーが峯松さんお薦めのメニューだ。

「本物の野菜を売りたい」という一途な思いで、これまでの小売業のノウハウも活かしながら販売に力を入れる峯松さん。今では親戚付き合いのようになった農家から、選りすぐりの野菜を託されるほどに信頼を受ける。誠実に取り組む農家と尼崎を結ぶ、いわば「ウエディングプランナー」だ。

『都市と農村は結婚しなければならない』。イギリス人のハワードはまだ工業先行の100年以上前に「男女が異なる資性と能力で互いを補うように、都市と農村も相互に補完し合ってこそ正しく機能する」と説いた。

「本当においしいものを食べてもらいたい。客が喜べば利益は出る。利益が確保できれば農家を継ぐ人も出てくる。食の追求が世界平和にまでつながる」。峯松さんの描く未来は壮大だ。公害問題に揺れ、健康に敏感な尼崎市民だからこそ、「食」のあり方にこだわっていきたい。

Ebenezer Howard エベネザー・ハワード

産業革命後に人口過密でスラム化したロンドンの街の環境を憂いて『田園都市構想』を提唱し、近代都市計画の祖とされる。阪急電鉄の創始者小林一三も彼の著書を読み、そのコンセプトを沿線の住宅地開発など経営の参考にしたといわれる。1850-1928


綱本琴●つなもとこと
1975年神戸市生まれ。武庫川女子大学生活環境学部生活環境学科建築都市設計学研究室助手