THE 技 神の寝床をかがる畳職人の技

ものづくりのまち尼崎に息づく匠の技の数々。最先端技術、職人技、妙技、必殺技…。
アマから繰り出されるワザに迫る

園田駅北の住宅街にある浅木畳店。二代目浅木英生さんは、市の地域貢献活動賞を受賞したこともある尼崎畳組合若手会のメンバー。同会は今年、老人ホームに真新しい畳を11帖贈った。「市がね、お金がないんですよ」。だから自分たちにできることをしただけーこともなげに浅木さんは笑う。

住宅の間取り図は単純な四角形で描かれているが、実際に部屋の隅々が直角になっていることは少ない。だから、畳の寸法は一枚一枚微妙に違う。作ってきたものをぴたっと合わすのが技だ。機械ではムリ。浅木さんがこだわる畳づくりは、昔ながらの手業を引き継いでこそ、なのだ。

畳の縁を落とす浅木英生さん

たばこの焦げやすり切れた部分の補修は、使い込まれたい草と色を揃えて畳表を編み、一部のみを挿し替える。裾かがりも手作業。糸を使って一本一本結んでいく。最近では熱したロウをひと塗りすれば済むのだが、この方がほつれにくい。浅木さんは「従来の方法も忘れないように」と、毎日一度は手慣らしをする。

素材にも、もちろんこだわる。い草は昔なじみの問屋を通して買い付けるが、必ず生産者の元へ出向いて話を聞き、納得してから購入を決める。染めてあるものは買わない。

「い草を刈り取った後、短くて使えないものはその場に残して肥料にするんです。倒れたい草の田んぼに寝っ転がると、ふんわりした感触と香りでなんともいえない心地よさ。これが神の寝床、畳の原点という気分に浸れますね」

物静かな口調に、伝統の手業への強い思いがにじむ。

昔の畳屋さんは畳を入れる家の前で作業をしていたから、まちの人も素材やつくりをよく知っていた。見極める目があった。「畳はやっぱり近所の畳屋さんに頼んでほしいねぇ」。しみじみと浅木さん。次は使い手がこだわる番だ。■綱本琴