THE 技 日本有数の職人技

ものづくりのまち尼崎に息づく匠の技の数々。最先端技術、職人技、妙技、必殺技…。
アマから繰り出されるワザに迫る

資料館は閉館するけど、はかりの歴史は僕の頭の中に詰まってるからね」と山下喜吉さん

「技なんかなんもないって」。使い込まれた道具と天秤の数々に囲まれて、照れながら笑う山下喜吉さん(77)は、この道55年のはかり職人。製造メーカーがほとんどなくなってしまい、修理ができる職人は日本に数人しかいないという。西長洲町にひっそりたたずむ山下精衡所には、西日本各地から修理の依頼が集まる。

普段あまり目にすることのない天秤は、事業所が取引や証明に使用するために基準となるはかりとして使われる。自動車の車検と同様に定期的な検査を受けることが義務付けられている。

真ちゅう、ニッケル、ステンレスなどでできた分銅は、時間が経つと金属が酸化して微妙に重さが変わってしまう。千分の1グラム単位で調整し、天秤の精度を整える技術が支えだ。

翼を広げたようなフォルム、意匠を凝らした外箱や細かい模様が掘り込まれた支柱など、随所に散りばめられた先人の技。「工業製品であり芸術品や」。天秤に魅せられた山下さんは、古今東西のはかりを集めた手造りの資料館を併設するほど。

電子制御の高性能はかりが主流の現在では、天秤は一見ローテクに見えてしまう。でも山下さんはいう。「電子はかりは便利で使いやすいけれど、やっぱり天秤の方が信頼できる」。数千台の修理を手がけた熟練の職人の美学がここにある。


山下精衡所
西長洲町2-26-3
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