南部再生第13号:もくじ
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Amagasaki Meets Arts

その三 土着性に出会う

絵筆に込められた原風景

 料理から気質に至るまで、その土地独特のモノが生まれる。じゃあ、この尼崎独特のアートっていうのも存在するのかしら?

画家・白髪一雄
1950年代に結成された前衛芸術集団「具体」のメンバーとして活躍し、国際的に高い評価を得る。尼崎市民芸術賞、兵庫県文化賞、文科大臣文化功労者表彰ほか多数。尼崎市宮内町在住

 今回取材に伺ったのは画家の白髪一雄さん。生まれも育ちも尼崎だ。白髪さんは、足を使って描くアクションペインティングで世界的な評価を得ている。

 「無我夢中の状態で描く」と語る白髪さんの絵には、エネルギーと生々しさが満ち溢れている。絵の具の塊が盛り上がり、大胆に動かしたヘラの痕跡は、まるで色に生命が宿っているかのようだ。普段の温厚で語り口も静かな白髪さんの姿からは、ちょっと想像しがたい。

 迫力のある絵を描くには、短時間で大量の絵の具を使って一気に描くのが良いと考えた白髪さんは、寝かせたキャンバスにペインティングナイフや自作のへらで絵の具をすくって叩き付けるように描きはじめた。絵の具は伸び、薄くなった部分や濃い部分ができて流動感が生まれた。それでも探究心は止まない―。『手では思った通りのものが描けるが、足で描くとどうなるのか?』と、天井の梁にロープを結んで、ぶら下がって足で描くようになる。「絵画は思想を持たず、文学的でもなく、図鑑のように対象を精緻に描写したものでもない。純粋に足で描いた行為だけを見せる、それが私の絵画です」と語る白髪流絵画は、こうして1954年の夏に誕生した。

 実はある時、真っ赤な絵の具を使って描いた絵を発表すると「お前の絵は血なまぐさいな」「とても尼崎的だ」と言われたという。そこには、白髪さんが幼いころ目にした尼崎のだんじり祭りの風景が織り込まれていたようなのだ。絵の具は入れ墨をした男の体に流れる真っ赤な血に、荒々しいタッチは時に死をもたらす程のエネルギーがぶつかり合う様に似ていた。強烈なだんじりの記憶が、足で描いた時に吹き出してきたのだろうと考えている。

 作品の産み出し方や発想は人それぞれだけど、それには身のまわりの環境やあらゆる記憶、見聞などが少なからず潜んでいるはず。白髪さんの感じた下町で開放的な活力のある尼崎の魅力、独特の雰囲気が、図らずも作品に結びついたように。アートに結びつく小さな実は、街のそこかしこに今日も存在しているんだわ!

木坂 葵(きさか あおい)●1978年新潟県生まれ。アートNPO大阪アーツアポリアで、アートコーディネーターとして築港赤レンガ倉庫の現代美術プロジェクトに参加中