論:自転車が主役のまち 関西学院大学教授 尼崎南部再生研究室顧問 片寄 俊秀

尼崎市民になりたくて引っ越してきた途端、最初のもめごとは自転車置き場の不足。もともと市の基準の1戸当たり1台ぎりぎりという設計だから、この自転車のまち尼崎で十分なはずがない。新築マンションなのにすぐにも増設工事が必要となった。1人1台、つまり1戸3台は確保すべきまちなのだ。

おトクな交通手段

自転車は、人類が発明した最大のすぐれものの一つと思う。丸いものは早く転がる。これに人間がうまく乗っかる方法を考えついたのだから偉い。頑張れば結構スピードも出る。それでいて化石燃料の消費はゼロ。空気を汚さない。おまけに運動にもなってヘルシー。平坦な尼崎では、元気な人なら中心部から一時間以内の走行でほぼ全域がカバーできる。通勤通学にはもちろん日常の買い物などにも至極便利で、尼崎が公害のない、賑やかで楽しいまちづくりを進める上で、自転車はまちの主役たるべき存在だ。

いつの頃からか、まちの主役がクルマであるかのような錯覚がわが国の「都市計画」を支配し、道路改良にばかり力が注がれてきた。その結果は、排ガス公害、交通事故頻発、商店街は寂れる、町の文化が消えるなどロクなことがない。道路はいくらつくっても不足とて、もっと道路を駐車場をとエスカレートするばかり。もちろんその背後には一国の「基幹産業」としての自動車産業と道路族の存在がある。

脱クルマ社会への試み

まちづくりの側からみたとき、人間の移動要求を満たすための所要面積をクルマと自転車で比較すると、圧倒的に自転車の方が効率が良い。下図は「自転車のまち」で知られるドイツのミュンスター市でもらった資料のコピーだが、ヨーロッパの幾つかの国では、既に脱クルマ社会をめざして、自転車を主役にしたまちづくりを進めている。ちなみにミュンスターの人口は27万人。都心部を取り巻く自転車高速走行専用のリング道路の内側は、歩行者と自転車とバスだけ。至る所に快適な自転車置き場があって、自転車専用の信号がある。もちろん空気はきれいし、まちは安全で楽しく、商店街の賑わいがすばらしい。

90人が移動するのに必要な道路空間(写真出典:Stadt Munster)

自転車
自家用車
バス

ママチャリロード構想

尼崎市でも放置自転車対策やレンタサイクル実験などいろいろと前向きの検討をされているようだが、もっと本腰を入れて自転車をまちの主役に位置づけたい。自転車のまちづくりマスタープランを策定し、将来的には自転車専用道のネットワークも展望しつつ、財政難のいま、安上がりで一歩一歩実現していく方法がほしい。

毎日市内を走っていると自転車通行のたいへん多い通りが結構あり、そこを「序列共用道路」(*)に指定できないかと考えた。市民から募って「ママチャリロード」(仮称)などとネーミングして、舗装の色を変え、これを自転車優先走行道路としてネットワーク化するところから始める。歩道、自転車道、車道を無理に分離せず「共用」空間として、クルマよりは自転車、自転車よりは歩行者が上、事故があれば文句なしに序列の低いものの責任という原則を改めて強調した道路である。

*「序列共用道路」は渡辺千賀恵著『自転車とまちづくり』(学芸出版社)にくわしい


片寄俊秀(かたよせとしひで)
1938年生まれ 奈良県出身。関西学院大学総合政策学部教授。専攻はまちづくり学、地域都市環境デザイン、自然環境復元計画。工学博士、技術士。京都大学工学部建築学科卒。著書に「ブワナトシの歌」「全国町並み見学」「商店街は学びのキャンパス」など