南部にまつわるエトセトラ

工場が多く、トラックが行き交い、人はほとんど住んでいない、そういえば海もあったな…。尼崎、国道43号の南側に対して多くの人が持つイメージはこんなものか。と今回の特集は、一般的にはJR線以南とされる「尼崎南部」の中でも特に、ディープサウスとでも呼びたい国道43号から南の地域の、皆さん意外に知らないだろう話題を紹介します。

緑色のエリアが「工業専用地域」
バランスよくまちづくりしていくために、あらかじめ土地の利用方法を決めて色分けしていくのが都市計画。臨海部では北東と北西の一部をのぞいて、工業専用地域に。ここでは、住宅、お店、学校、病院、ホテルなどを建てられないことになっている。

【1】まだ工業地帯と呼べるのかな

まずはじめに地域の概要から。「都市計画図」なる地図を眺めると、国道43号線から南はほぼ一色で塗りつくされている。これが工業専用地域だ。市内にある工場の約13パーセント、282事業所が集まるが、工業出荷額が市全体の5分の1というのは寂しい数字だ。逆に、全市民のわずか2%とはいえ1万1千人の人が住む。工業専用地域以外のエリアに、東は中在家や築地といった江戸時代からの城下町、西には元浜や道意といった住宅地があるのだ。江戸時代の新田開発で埋め立てられただけあり、地域の歴史もしっかりと息づいている。

【2】ドクタードウイの町

江戸時代。たいそう腕のいい針医がいたそうな。尼崎藩主にも重用されたこの名医は、新田開発を勧められ東新田村(大庄地区)の地先を埋め立てた。ここが今の道意町であり、町名はこの針医の名前、中野道意にちなんでいる。「どうい」ではなく「どい」と読む。

【3】世界でも有数のレーザービーム

高さ3メートルを超えるレーザ装置

「世界にたった4台しかないハイテクマシンがここ尼崎に…」と勿体つけて紹介させていただくのは、(財)近畿高エネルギー加工技術研究所の「大出力炭酸ガスレーザ装置(CO2レーザ)」だ。国道43号線のすぐ南、尼崎リサーチコア内にそのマシンはある。300m2の部屋にある巨大装置から発生した数10kwのパワーを直径数ミリに集めることにより、40ミリの厚板を一瞬にして溶かす。2001年には、新たに「ものづくり支援センター」を開設。講習会や技術開発といった事業を通して中小企業のサポートに力を入れている。

【4】商売繁盛出世の神様

市内に66社ある神社のうち、国道43号以南にあるのは4社だけ。初島の少し北で、大きな工場と工業団地、運河に囲まれてひっそりたたずむのは、尼崎最南端の神社「出世稲荷宮」だ。出世の二文字が目をひく。工業地帯のど真ん中に建つこの神社。周辺事業所の商売繁盛や仕事の安全を守るのはもちろん、出世にもご利益があるそうだ。ひとつひとつ丁寧に作られた蓬来を求めて遠方からも参拝客が訪れる。(出世稲荷宮は国道43線東本町交差点を南へ約5分)

出世稲荷宮は国道43号線東本町交差点を南へ約5分
稲穂をあしらった蓬来

【5】白熱するサーキット

イチバンラジコン 尼崎店
元浜町5-3 06(4869)3166

「尼崎にサーキットが?」それが元浜のイチバンラジコン内にあるのだ。サーキット施設を備えたラジコン屋は、本店のある門真や須磨方面以外なく、近隣では珍しい存在。

狭い入り口をくぐると目の前にどーんと箱、はこ、ハコの山!パーツアイテム1万点以上。数百円のミニ四駆から、チューンアップされ新品より高い中古車まで、所狭しと積んである。売れ筋はキット、充電器込みで1万5千円程度の四駆車。カスタマイズするのが楽しみな20~40代がメインの客層で「なぜ平日昼間にこんなにお客が?」という盛況ぶり。彼氏についてきた女性が買うことも。サーキットではテスト走行からちょっとしたレースもできる。

【6】明石大橋が見える…

平日の昼でも釣り人の姿が

武庫川の河口ではカップルが釣りをしていたりするのだ。イワシ、チヌ、ガシラ、メバル、タチウオ、イカ等なんでも釣れる。防波堤に座り海を眺めてのんびり過ごすのも悪くない。

遠く西の海を眺めると、地平線に光が揺らめく。六甲山に登らなくても神戸の夜景はアマからも楽しめるのだ。さらに遠くに目をやると、世界最大の吊り橋、明石海峡大橋も見える…時もある。晴れた日限定の穴場スポット。

【7】一人しか住んでいない町

国道43号線以南に32町あるが、町丁別人口統計を調べると、工業専用地域にも住民がいることがわかる。さらに「一人しか住んでいない町」や「町内22人中、女が一人」というスゴい町があることを発見。気になる…。

【8】ボリューム満点秘密の食堂

少しそっけない、でもどこか懐かしい食堂。いやいやこのシンプルさこそ労働者の食堂かも。昼時には鉄鋼や電気、ダンボール製造など、武庫川工業団地で働く男たちでいっぱいになる。ボリューム満点の450円の日替わりA定食はおかずを3種類の中から選べる。他にうどん、カレー、ラーメンセットなどボリュームたっぷりのメニューがある。

工業専用地域では数えるほどしかない食堂。一般の人も30円増しで利用できる。阪神武庫川駅から無料の送迎バスが利用できる。海を見がてら是非一度寄ってみては。残念なことに土日は休み。

昼休みは混雑するため、少し外した11:30ころが狙い目
棚に並んだおかずと小鉢を自由に組み合わせる。昼休みは混雑するため、少し外した11:30ごろが狙い目

【9】200円で海をひとっ飛び

海側から見下ろすと臨海部の地形がよくわかる

阪神高速湾岸線「尼崎末広」と「尼崎東海岸」の間の通行料は200円。2kmほどの区間だが東と西の地先を結び、東西の交通が不便なこのエリアでは近道として重宝することも。尼崎南部を一望できる数少ない場所でもある。

【10】野鳥もマニアも集まる

南東部の地先、造成が進む埋め立て地から中島川河口にかけて野鳥が集まる。コアジサシやツクシガモ、ミサゴといった絶滅が心配される鳥が数多くみられ、バードウォッチャ-も集まるスポット。毎年1月には環境省が野鳥調査をしている。

野鳥は人の気配を嫌うため、一般の人が近づけない埋め立て地や、周辺の餌場となる水辺は絶好の生息地になるようだ。ただし、埋め立て地へは工事中のため立ち入り禁止となっている。双眼鏡を持ってそっと遠くから眺めてみれば、街中では見かけられないめずらしい鳥に出会える。

子育てをするコアジサシ。尼崎には4月下旬から5月頃やってくる。(写真は尼崎市環境政策課ホームページより)
干潟が広がる埋め立て地。ここだけでなく、野鳥は尼崎港内でも見られる。

文/若狭健作 北原知也 構成/佐藤 実