いちどやったらやめられない。がんばれ!NPO

素人だからこそ 【能楽普及協会】

豪快な笑い声が印象的な林田さん

能楽普及協会の理事長林田浩二さん(40)は能楽師でもなければ研究者でもない。しかし協会顧問や理事には国宝クラスの一流能楽師が名を連ねる。「僕は全くの素人なんですよ。だからこそ僕のような人間が能の世界へ気軽に入れたらと思って」と林田さんは話す。大学を卒業し映像制作会社に就職。テレビ番組の制作に携わり、26才という若さで制作プロダクションを設立した。本業はテレビ番組のディレクター、制作プロダクションの社長である。

敷居の高さに愕然

「能番組の制作のために能楽師の先生をたずねたんです。超一流の先生方を前に会話が三分の一も分からない。ある程度は予習もして行ったんですけど…」同じ日本にいながら受けたカルチャーショック。伝統芸能の敷居の高さに愕然とした。番組制作が進むなか、能楽には一般的な窓口がないことや自身が抱いた印象を正直に伝えた。「能楽師の先生が『じゃあ林田さんにその役割をお願いします』と…」きっかけは単にその時の流れ。2000年7月、県下では数少ない文化系NPOが生まれた。

NPOを楽しむ

風格のある建物。震災家屋を改修したこだわりの事務所だ

公演を開きたいと思っている人と能楽師の間の架け橋になるいわば能楽の代理店。「自分の会社でするとあくまでも商売として見られる。実際は大赤字ですよ。稼ごうと思ってたらこんなことしません」。そのためにNPOという形を選び、経理を公開して、より広く能を広めようと考えている。多くの人が期待するような強い使命感や正義感が動機ではなく、流れでそうなっただけという軽妙なスタンスである。

地域のソフトづくり

高知県香美町の公演でのこと。観に来ていたお年寄りが「よく遠いとこまで来てくれて」と泣きながら握手を求めてくれた。京都や東京に公演が集中していて、地方で能を観たいと思っている人はなかなか機会がない。「公演が恒例行事になれば地域の活性化にもつながる」と地域密着の活動にも積極的だ。今後は、事務所のある尼崎でもアクションを起こせたらと意気込む。

「能をやりたいクライアントがいないと公演ができないのが現状。今後は自主公演もできればと思うんですが」