「水が濁って海底に太陽光が届かないことが汚泥が溜まる大きな原因です」。護岸につくイガイという貝は太陽の当たらない低酸素水域では生息できない。そのため死んでしまったイガイは海底にしずみヘドロとなる。これがさらに低酸素水域を広げてしまうという悪循環がおこる。実験施設に作られた「生物プラント」は太陽の当たる水深1.5mほどのところに人工的に作ったイガイの生息場所だ。さらに貝が付着しやすいような素材をいくつか護岸に貼り付け、貝にやさしい護岸改良の可能性を探っている。 筏から水中に網を垂らして、そのなかでワカメが生息できないかと藻場実験をしている。ワカメがリンや窒素といった汚濁の原因を成長の過程でとりこんでくれる。そのワカメを取り出すことで汚濁のもとを海から取り除くことができるという実験だそうだ。 「そのワカメも水から引き揚げた途端に廃棄物になってしまいます。食べられるといいんですが、今のところコンポストで肥料として使ったり、メタンガスを発生させて自然エネルギーとして活用するくらいしか私たちも思い付かなくて…」
これらの実証施設は今年2月に着工し約1ヵ月半かけて完成。今回のプロジェクトを担当する石川さんと北村竜介さんは、完成前から週に一度は尼崎の海にでかけ実験を管理する。「干潟を造成した途端、この辺りにもともと生息していた魚やカニが集まってきました。実験をすすめていくうちに、尼崎の海にもこんなに生き物が生息していたのかと驚きました。この生物たちの生息をちょっと助けてやることで、尼崎の海はよみがえるんじゃないかと思います」 一部の人が趣味として魚釣りを楽しむ程度。それがアマの海の現状だ。しかし、その魚が海をよみがえらせてくれるかもしれない。
「子どもの頃から30年ほどアマで釣りしてるけど、大阪よりはずっときれいやと思うわ。釣った魚もちゃんと食べれるし」と防潮堤に座って釣りを楽しんでいた40代の男性。「最近はとくに海がきれいになった」と話す。 尼崎で普段から海に足を運ぶ人は、無論海水浴でも潮干狩りでもなく、釣り目的がほとんどだ。丸島町あたりでは、釣り客を相手にした「渡船」ののぼりを見ることができる。宮本渡船のご主人で、子どもの頃から尼崎の海を見続けてきたという宮本久男さん(49)は「阪神間には大きな川の流れ出る海が少ない。西は武庫川、東は淀川に挟まれた尼崎の海には魚が集まってきます。釣り客には意外と知られている穴場なんですよ」と尼崎の海の魅力を教えてくれた。
アマの海は知らぬ間に私たちに近づいていたのだ。 「海の生き物が自分で水をきれいにしてくれるんですよ。今回の実験はその自然の機能にほんの少しだけ人間がサポートしてやるというもの。そうすればもっと生き物が増え、浄化機能が強化されることが期待されます」と石川さん。 海の生物と人間が力を合わせて海をきれいにする。美しい夢ではないか。
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