【特集】イマドキの商店街 中央・三和・出屋敷の挑戦

「商店街には多くの買い物客が訪れ、人々が憩いにぎわい、まさにまちの顔ともいえる」といえたのは古きよき日本でのこと。消費者のライフスタイルが変わり、デフレ不況は終わりを見せず…といった時代の流れに、日本中の商店街が「何とかしないと」と新たな商店街像を模索している。そして今、中央・三和・出屋敷商店街でも新たな動きがおこっている。

ひょっとしたら、これは日本一の規模を誇る商店街かもしれない。阪神尼崎駅から出屋敷駅まで15の商店街、市場が集積し、さらにその周辺の細街路にも未だ誰も数を確かめたことのない店舗群がある。これらを直線にすればどれほどの長さになるのか。

高度経済成長期のにぎわいには及ばずとも、まだまだ「衰退」の文字はこのまちには似合わないはずだ。

「人を呼んでくるためのイベントから始めなければいけない商店街が多いなか、このまちには本当にたくさんの人が今もまだ行き交っています」尼崎市商業課の西谷俊一さん(51)は現状を分析する。

しかし「このままではやがて…」の思いが殊に若手商店主たちの胸にはある。そうした危惧を払い、本当に「日本一の商店街に」。あまけんもそう思う。

中央1番街西を行き交うタクシー
中央4番街西のステンドグラス
なぜかみな早歩き
たぶん日本一のガチャガチャ集積地

人間ドラマが渦巻く

「商店街には人間ドラマが渦巻いています」

三和本通商店街で50年、「商店街」になる前から、薬局を営む83才の井澤正直さんがこの半世紀のまちを語ってくれた。

「あのころは何を売っても売れましたで」

敗戦から朝鮮戦争のころは、まさに人があふれ皆休む暇もなく働いたという。そのなかで井澤さんは様々な商店主たちの生きざまをみてきた。親の財産をバクチで食いつぶすどら息子。露店商からたった1代で財をなした人。札付きの悪ガキが今では立派な商店街役員に…。

「いろんな人間がいるからこそ面白い。その反面、商店街として団結しなければならない時に、彼らをまとめるのは大変なことですよ」これまでの商店街としての取り組みには、団結力がないと指摘する。

1985年、商業の近代化やまちづくりに意欲をもつ若手経営者30人が「元気街グループ」を結成。以来「元気街祭り」という地域の祭りが続いている。ガイドマップを作成した。ポイントカードシステムを発足させた。アーケードやカラー舗装も新しくした。元気街ホームページを立ち上げた。それにもかかわらず…「地域が一体化しているという感じは少ない」との思いがそれぞれにある。

まち全体で考えないと

2002年4月、この商店街に新たな動きがおこる。『中央・三和・出屋敷まちづくり株式会社』を母体にTMOが立ち上がる。この界隈もまた、全国の中心市街地の例にもれず空洞化の兆しをみせる商店街のひとつ。特にこの10年の売り上げ、来街者数の落ち込みは深刻である。『中央・三和・出屋敷まちづくり株式会社』の取締役をつとめる吉岡健一郎さん(42)は「バブル以降の不良債権問題、ここ3年のデフレ不況など、日本経済の悪影響は商店に直接降り掛かってくる」と現状をシビアに認識する。

「価格で競争しても大型店には勝てない。この商店街の特徴を打ち出していかないと生き残れない」若い世代の商店主たちは危機感をつのらせている。

「結局、これまでは商売人だけで何とかしようとしてきた。もっと周辺住民やまち全体で考えないと、このまちはよみがえらない」

何か楽しいことは

4月からのタウンマネージャーとして名乗りをあげ、このまちに関わる中小企業診断士の池田朋之さん(45)を中心に、昨年からこの商店街のサポーター組織ができあがってきた。商店街とはまったく関係のない人々が20人ほど集まり、まちを客観的に見つめ、何か楽しいことから始められないかと議論を交わしている。

「これからは中央・三和・出屋敷商店街の周辺にある貴布禰神社や寺町、市民団体と、もっと積極的に連携していきたい。まちを支えるには商店街だけでは小さすぎる」と吉岡さんはこれからの商店街のあり方を語ってくれた。

この商業地区に軒をつらねる商店、事業所の数は3,000とも10,000とも言われている。さほどに、この地域の本当の姿が誰にも見えていないとも言える。だから反面「この規模の集積は日本中探してもなかなか無い」とまちのポテンシャルに期待を寄せる声も聞こえてくるのだ。

TMOとしての活動第1弾は「情報発信事業」。宅配サービスにあわせて、このまちでもっと買い物を楽しんでもらうために商店街のカタログを制作する。商品だけでなく、各個店、商店街独自の特色をそのなかに盛り込んでいく予定だ。これまでの活動とはひと味違った展開を期待したい。

えっ!商店街からお届け?
元気ねこの宅配便

「商店街で買い物したいけど、時間がなくて…」というお忙しい方々のために、中央・三和・出屋敷まちづくり株式会社は「元気ねこの宅配便」というサービスをスタート。電話、ファックスで注文した商品がその日のうちに自宅に届くという画期的な取り組み。商店街の宅配サービスは高齢化社会の今、日本全国で注目されていますが、これだけの規模での取り組みはちょっとスゴい。

変わらない時間

「ちょっとほかでは手にはいりまへんで」という普通は手が出そうもない衣料品の店。一歩でも先を競うように店先からはみだした商品は道路を侵食し、もう露天商である。モツ焼き屋がある。店先の小さなベンチに腰掛けて冷やしあめを飲む。まさかと思うが、0円からの値札をつけたブティックがある。店主はまるで年来の知己のごとく話し掛けてくる。

これらの店もほとんどが夜8時になるとシャッターを閉じる。かわりに活気をおびてくるのが周縁部にある飲み屋、スナック、風俗店。商店街がきらびやかな夜の装飾品をまとう。

何を出されるかわからないような店がある。何をされるかわからないような店がある。ピンクサロンの横の小さなくらがりに足を踏み込むと、上品な笑顔の夫婦がしゃれた小鉢を出してくる。少々ふところが淋しくても泥酔できる店がある。

数え切れないほど縦に横にスナックが並んだ一画。おぼつかないあしどりは、明らかな行き先。いつも落ち着ける、何も変わらない場所。しかも、そのほんの隣の扉は限りなく遠い。時間と空間のねじくれたまち。

次の店へは薄暗い商店街を歩くのである。アーケードに靴音がひびく。日付はとっくに変わった。しかし、肌にふれてくるのは変わらない時間である。

キーワード解説

【中心市街地】 商業施設、公共施設、文化施設など、さまざまな機能が集積している都市の中心地区。

【中心市街地活性化法】 都市中心部の空洞化を防ぎ、都市機能や公益・商業施設等の再配置と計画的な集積を図ることを目的とする。地域の創意工夫を生かしつつ、民間業者、地方自治体および国が連携し、一体的・総合的な措置を講ずることで、都市機能を再構築することが期待されている。1998年制定。2000年施行。

【TMO】 Town Management Organization 中心市街地活性化法に基づき、市町村の商業関係者が組織する機関。認められる組織としては商工会議所、特定会社、公益法人が政令で定められている。 市町村の基本計画にのっとり、TMO構想を策定する。タウンマネージメント機関、まちづくり機関、認定構想推進事業者とも。

【中央・三和・出屋敷まちづくり株式会社】 1996年3月設立。この地区の整備事業のなかで、地区全体として取り組む必要のある事業の推進母体として設立された。2002年4月にはTMO認定を受ける。