ひとりごと

農業はまちづくりの原点 農地は人を育てる

尼崎市の北部にある富松地域は、昭和35年頃から年々都市化が進み、現在は静かな住宅地が広がりマンションも立ち並ぶ中に、わずかながら農地が点在している。

この農地は、地域に暮らす住民にとって心を和ませる文化的空間となっている。

学校へ行き帰る子どもたち、自転車で職場に急ぐサラリーマン、朝夕の散歩を楽しむ高齢者、地域に住む人なら誰でも四季折々の風を体感する。

初夏には、礼儀正しく並んだ田植えの早苗の緑、秋には黄金色に稔った稲穂の波、初冬は、発芽してモンシロ蝶が飛び交う。田んぼや畑はいきいきと生きている。地域と共に生きている。地域を活かしているといった方がいい。

高度経済成長に浮かれて多くのものを得たが、その一方で大きなものを失った。まちの道という道はアスファルトになり、肥沃な農地は宅地となり、地域からあのしっとりとした土の匂いが消えていった。地域から「水分」が減っていった。人の心はカラカラになって潤いがなくなっていった。

カラカラに乾いた街には人は住めない。山の森林が多くの生き物を育てているように、街にも森のような湿り気が要る。だから、地域に農地があってほしい。

汚さないでほしい、この潤いのある農地を。大切にしていきたい、この貴重な空間を。住みつづけていける街、暮らしつづけていきたい街をつくるために。


善美 壽男(よしみ ひさお)

1948年尼崎市生まれ 富松神社宮司/富松21代表